今日で東日本大震災の発生から12年を迎える。2011年3月28日号の緊急特集「3・11 企業がすべきこと」の中からいくつかの記事をピックアップし、日経ビジネスが当時の企業の動きをどう捉えたのかを振り返る(記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです)。

目次
あの日、日経ビジネスは震災をどう伝えたか?
エネルギー不足が日本を襲う 電力不足長期化、復興のネックに
広がる原発被災の影響 東電を待つ次なる危機
全国に広がる資金難 期末の中小、資金繰りに強震

「商業手形も津波で流された」。仙台の零細企業の社長が嘆く。東日本大震災の余波は、期末前の中小・零細企業の資金繰りを直撃している。政府も、緊急融資支援制度などの整備を急ぐが、対象が多すぎて追いつかない。

 東日本大震災から約2週間。被災地の1つ、仙台市では、中小・零細企業に、資金繰りという深刻な問題が持ち上がっている。

 「商業手形や小切手が、すべて津波で流されてしまった」「工場設備の修理資金をすぐに調達したい」「つなぎの運転資金を借りられないか」…。

 仙台市にある商業手形割引業者には、震災の1週間後から資金繰りに関する問い合わせが増えている。3月末は年度末に当たる企業が多く、その支払い資金を確保するためだ。商業手形を現金化したり、手形を担保に資金を借りたりするなどして、期末の資金繰りを乗り切ろうと、中小・零細企業の経営者が次々と相談を寄せている。

 宮城県には水産加工関連の零細業者が多いが、大半は現在、生活再建で手がいっぱい。「徐々に経済活動が再開した時に、資金繰りの問題はさらに増える」と先の金融業者は見ている。

4月まで仕事がない旅行会社

 被災地だけではない。内需低迷で、業績が冷え込む全国各地の中小・零細企業にも震災の余波は広がる。

 「今日も600人の社員旅行がキャンセルになってしまった」

 東京都豊島区にある人材派遣会社の幹部が悲痛な声を上げる。同社は、バスガイドや添乗員を旅行会社のパックツアーに派遣している。

東京・銀座の歓楽街
東京・銀座の歓楽街。震災後は人通りが少なく、ネオンの消えたビルも多い(写真:的野 弘路)

 旅行業界にとって春は繁忙な季節。同社も5月頃まで社員旅行やパックツアーの予約で埋まっていたが、震災を境に状況は一変。「自粛」「見合わせ」「延期」などキャンセルの嵐が吹き荒れる。

 「地震発生から1週間で3000件のキャンセルが出た」「4月までの仕事がほとんど消滅した」…。似た類の話は、旅行業界には枚挙に暇がない。東京発のツアーを手がける旅行会社には、キャンセル代金を取っていないところもあり、入るはずの資金が入らない。

 人々の外出控えは、飲食業界にも暗い影を落とす。

 「もうやめたい」。東京・銀座で飲食店を経営する社長が言う。同社は、数年前にブームとなった「ゴルフバー」を導入し、一時は都内に5店舗を展開した。ところが、今回の震災によって窮地に。

 既に、数カ月分のテナント料を滞納しており、資金繰りが、いよいよ危うくなっている。「ほかの店も似た状況。銀座の歓楽街は一層寂しくなる」と社長は力なくつぶやく。

次ページ 政府は支援体制を構築したが…