※2013年4月4日に日経ビジネスオンラインで公開した記事を再掲載しました。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。
アベノミクスによる株高と円安で、中間層は沸き上がっている。だが、輸出数量が減少し続ける中で、物価が上昇する景気の現況は、経済の教科書にある「スタグフレーション」そのものだ。人気エコノミスト、藻谷俊介スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表が、日銀と安倍政権の「連携」を憂う。
(聞き手は金田信一郎)
日本銀行の新総裁に黒田東彦氏が就任しましたが、2%の物価上昇率を達成することを約束させられる格好になりました。そもそも、日銀総裁は、就任当初からこれほど金融政策を縛られるものなのでしょうか。
売れないのに値段が上がる
藻谷:その約束させられたことを、張り切ってやっているような感じがします。この人もなかなかフレキシブルな人だな、と思いました。

スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役エコノミスト。1962年生まれ。85年東京大学教養学部卒業。住友銀行、ドイツ銀証券をへて96年に独立。日経ヴェリタス「人気アナリストランキング」の常連
自我を強く持った人ですと、他人から横やりを入れられることを好まないものです。ある程度の要望を言われて仕事を受けたとしても、「過剰サービス」だと思ってしまいます。報道を通して見ているだけですが、黒田さんはハッスルしているみたいで、それが少し気になりますね。
とにかく「常識人」としてやってほしい。(金融緩和を)やめる、やめないという判断について、(安倍晋三首相の)期待に応えることをベースにするのでなくて、黒田さんが専門家として、自分で考えて決めてほしい。当たり前のことなのですが、本当にそれができるのか、報道を見ていると不安になります。
安倍首相は日銀との連携を強化すると言っています。でも、つい10年ほど前には、「日銀の独立性が重要だ」と議論されていました。中央銀行の独立性を強化するという話はどこに行ってしまったのでしょうか。
藻谷:時代と状況が変わったんでしょうかね。でも、中央銀行の独立性は、今のような状況こそ必要なんです。
政府は「景気をよくしたい」「中央銀行にカネを刷らせたい」と思っている。それに対して、中央銀行が金融政策の専門家集団として、違った意見を持って臨むことが重要です。これはバブル経済の反省から生まれた議論でした。しかし、今では「バブルを作ったっていいじゃないか」という雰囲気になっている。黒田さんも、「これをバブルと言われても、私は構わない」と実は思っているんじゃないか。
景気について言えば、経済データは、実はよくないんですよ。特に気になるのは、輸出数量が毎月のように減っていることです。ただ、25%も円安になったおかげで、輸出は金額ベースで大幅に手取りが増えている。でも、数量が減っているのだから、国際競争に負けているということです。
だから、なぜエコノミストが指摘しないのか不思議なんですけど、これこそが「スタグフレーション」なんですよ。
あの、社会の教科書に載っていたヤツですね。
藻谷:だって、販売数量が減っているのに、物価が上がるんですから。今こそ「スタグフレーションの状態だ」と言わなければならない。でも、言わない。どう見ても、今こそ「スタグフレーション」に一番近い状態です。だとすれば、こういう状況下で株と地価だけが上がるとすれば、まさに「バブル」でしょう。今こそ、中央銀行の独立性が、本当は必要な時なんです。
Powered by リゾーム?