官邸主導の弊害はどういったところにありますか。

石原氏:従来は各省の幹部職員として採用されると、先輩・後輩の間で能力と人格の両面が問われる。その中で、優れた人材が幹部として選ばれていく。将来の展望など、時の政権が選ぶ政策とは違う考えを持った役人もいる。その場合、違う意見を持っているからといって排除してしまっては行政の進歩はありません。

 役人は長い目で行政を見ていますが、政権は選挙を戦っているので当面国民が期待する政策を優先的に実行しようとします。

 例えば税金を重くしてもいいから、教育、福祉を手厚くしたほうがいいのか。社会保障をほどほどにして、税金を軽くするほうを選ぶのか。これを決めるのが政治の世界です。官僚の中には税負担が重くても社会福祉を手厚くすべきだ、と信ずる人もいるでしょう。しかし、政権は社会保障をほどほどにすると決め、増税を避ける、と判断するかもしれません。そういうせめぎ合いが政権と行政にはあります。

 政治の言う通り執行するほうがいい役人なのか。国民に負担を重くしてもやるべきだ、と意見を述べるほうがいい役人なのか。

となると、いい役人というのはどういうものになるのでしょうか。

石原氏:幹部官僚が所管行政に関して我が国の現状について一定の意見を持つことは重要であって、意見は主張すべきです。同時に、民主政治ですから時の政権が決めたことには、自らの信条と違っても従わないといけない。その前に大事なのは時の政権に対して意見を言う役人を「生意気だ」と左遷し、飛ばすのか、ということです。

 繰り返しになりますが、日本は民主主義ですから、官僚は国民が選んだ政権に仕えないといけない。具体的な政策は政権が決めるわけです。ただ、意見を言った者が人事で不利な扱いを受けてしまえば、自分の信じる仕事ができる職場でなくなってしまう。そうなると、優秀な公務員の減少につながる。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)

キャリア職の倍率は下落傾向にありますが、現状をどう打破すべきなのでしょうか。

石原氏:内閣人事局ができて内閣が公務員の人事について関与していくこと自体は、民主主義の一つの結論として否定すべきではないでしょう。

 ですが内閣は公務員が萎縮しないように人事権を行使すべきです。内閣が権限を振り回すと、公務員は萎縮してしまいます。そんな職場で有益な政策が生まれるでしょうか。役人が身分的に保障されないと、良い人材は集まらない。結果的に、行政のレベルが下がってしまうと心配しています。役人の視野が狭くなるかもしれないし、官邸の顔色をうかがって仕事をしたほうが無難となれば国民にとってもよくはないですよね。

官僚が萎縮しないようにするには、どういったことが必要ですか。

石原氏:政権にとって耳の痛い意見を主張するような官僚がいたほうが、長い目で見れば国民のためになるのではないですか。役人自身も私利私欲がないとは言えないですが、所管行政について人生をかけた仕事をしたいと思って職を選んでいるわけです。時の政権は聞く耳を持たないといけません。官僚が政権の「下僕」になっているようじゃダメですね。

 私は内閣人事局を「伝家の宝刀」だと思っています。やたらに抜くものじゃないんですよ。最後の人事権を内閣が持つのはいいですが、毎年抜いてしまったら、伝家の宝刀じゃなくなってしまいますから。

今は台所の包丁のようですかね。

石原氏:毎年抜かれている感じです。政権が思いつきで役人を変えてしまうと、官僚の能力が落ちてしまう。

 政治主導、公務員の中立性。これらの主張を尊重しながら政策は実行させていく、その兼ね合いだと思います。異を唱える役人を飛ばすのではなく、それはそれとして政権が示して政策を実行させる度量が政治には必要です。時の政権に反対意見を言う官僚もうまく抱えながら、行政というものを進めていく。これが長い目で見たとき、国民の生活にとって必要なことになるのではないでしょうか。

後編に続く)

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