金川さんにとって社員はどういう存在ですか。

金川氏:優秀な社員が何人いるかで、その会社の伸びが変わってくると思います。自分で言うのもおかしいけれど、うちの社員は非常に忠誠心がありますよ。陰日なたなく、本気で取り組んでくれる。非常にありがたいですね。

なぜ信越化学に忠誠心を持つのでしょうか。

金川氏:それは私もよく分からない。むしろ社員に聞いてください。ただ、昨年非常に感激したことがあるんです。

 昨年、米国南部を大型ハリケーンが襲ったでしょう。8月末の「カトリーナ」はニューオーリンズを直撃し、多くの被害を出しました。そしてその直後に発生した「リタ」が、テキサス州にある米子会社シンテックの工場に向かってきて、避難命令が出たんです。にもかかわらず、米国人の従業員39人が残って工場を守ってくれた。

 これは一朝一夕にできません。従業員がこの会社は自分のもので、運命共同体だと思ったんですね。信越化学という船が沈没するのを守ってくれたんです。私は後から聞いて、大変感激してね。自ら感謝状を書きましたよ。

信越化学は2006年3月期決算でも、2ケタ成長を見込んでいます。高成長をどうやって次につなげていきますか。

金川氏:私がいるうちは、何が何でもやらなきゃいけないと思っています。ただ私が辞めた後は、次の人の力量です。後を保証しろと言われても、それはできませんよ。経営者の最大の仕事は後継者を育てることと言われますが、それは大間違いです。

「社長教育」は不可能

育てられない。

金川氏:能力というのは、努力の部分もあるけれど、ある程度持って生まれたものだと思います。それを教育しろと言うのは無理ですよ。私が教育できるのは小学生まで。中学生になったら生意気になってできませんよ。いわんや社長の教育なんて。私にできるのはOJT(職業内訓練)だけです。その結果を見守るしかない。

 教育で経営者が育成できるのなら、松下政経塾とかに行っていればいいんです。経営というのは、そんな簡単なものじゃないですよ。

指名委員会で選ぶというのは。

金川氏:それはもっと問題。会社のことを知らないもん。学校の先生を連れてきて最大公約数で社長を選んでも、事業が成功するわけがない。

ならば、社長に必要な資質は何だとお考えですか。

金川氏:まず先見性があること。それには現状認識が正しくできなければならない。自己を客観視できないと、良い時に自己陶酔に陥ってしまう。「治にいて乱を忘れず」と言うでしょう。さらに、実務執行能力も不可欠です。

今年、信越化学は創業80周年を迎え、金川さんもちょうど80歳になられます。何か節目のようなものは感じますか。

金川氏:全くありません。毎年が節目です。私は2年ごとに車のライセンスを更新しますが、そのたびに年齢は感じますよ。だけど、1つの使命感を持っていれば、そんなのは問題じゃない。私よりほかのAさん、Bさんの方がいいと思った時は、さっと交代した方がいいと思います。私も楽をしたいですからね。しがみつく気は毛頭ない。

 若くても頭が固い人はいっぱいいるし、逆に、年を取っても頭の軟らかい人はいくらでもいます。それは個人差だから。昔と比べたら全然違うけれど、頭はまあまあですし、体も元気だからね。それは誰かに言われて気づくことじゃない。自分が一番よく分かっていることです。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「もう一度読みたい」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。