反骨心なければ社長は辞めろ

信越化学は2001年から3年ほど、利益の伸び率が2~3%にとどまり、「成長の限界」と言われました。

金川氏:私は年に10回とか20回とかIR(投資家向け情報)の会議に出ているんですが、ある時、有力な投資家からこう言われたんですよ。「信越化学はもう2ケタの成長はできないんですか」と。また、あるアナリストには「信越化学の成長神話は終わって、連続増益だが成長率は低い会社になったんですか」とも言われた。増益を続けているほかの会社には悪いけれども、それにはカチンときた。

ものすごい反骨精神ですね。

金川氏:それを感じないようになったら、社長なんて辞めなきゃいけないですよ。腹立たしかったけれど、事実は事実ですからね。しかもその責任は社長の私にある。そして振り返ってみると、私自身がマンネリになっていた。

どのあたりがマンネリだったんですか。

金川氏:当時でも6~7年、最高益を更新していたからね。率直に言って、これでいいだろうと私自身思っていた。もちろん、一応のことは言っていましたよ。でも、安易な道を選んでいたんです。疲れたし、ちょっとぼやっとして、日なたぼっこでもしようかと。

そこで成長神話の崩壊と言われて…。

金川氏:ひどく頭にきた(笑)。それなら見てろ、事実で示してやると思って、私が直接、具体的な指示を出したんです。結果がダメなら、その責任は社長に全部集約される。そのまま終わったら情けないからね。事業機密だからあまり言いたくないんだけれど、大事なところを5つか6つやりました。競争相手を大きく懸け離して、蹴散らすためには自分が強くなるしか道はない。

 それが2004年度の決算に出て、20%の増益になったんです。今年度もそれぐらい増えると思いますよ。

当たり前の話ですが、会社は成長を追わなければならない。それは何のためでしょうか。

金川氏:株主のためですよ。資本主義社会では、会社の所有者は株主でしょう。私は株主の「召使い」に過ぎません。株主を満足させるために、社長が一番働かなければならない。

 最近では社会のためとか、変なことを言っている人も多いけど、それはもう大前提ですよ。コミュニティーとの関係とか安全、公害防止や法令順守なんていうのは、もう当たり前のお話。言うに値しないことですよ。

ホリエモンは大前提を無視してしまった。

金川氏:その通り。会社は株主のもので、利益を追求するものです。その点に限れば、ホリエモンは間違っていない。利益を追求するからこそ、税金も納められます。この10年間で信越化学は数千億円納税しました。これは大変な寄付ですよ。政府がうまく使いさえすれば、あんな膨大な負債は生まれないはずですよ。

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