信越化学工業会長の金川千尋(かながわ・ちひろ)氏が1月1日に亡くなりました。96歳でした。追悼の意を込めて、日経ビジネスが2006年3月に掲載した金川氏(当時は信越化学社長)のインタビューを再掲します。謹んでご冥福をお祈りします。
(聞き手は当時の日経ビジネス編集長、井上裕)

先日、ライブドアの堀江貴文前社長が証券取引法違反で逮捕、起訴されました。どのように受け止めていらっしゃいますか?
金川氏:ここのところいろいろな新聞を注意深く読んでいるんですが、報道が事実であれば、あれは一種の詐欺ですよ。拝金主義というか、ちょっと異常な人ですよね。若い人が何もしないで、ああいうふうに何十億円とか何百億円とか手に入れるようになったら国は滅びますよ。
もちろん彼がやったことがすべて悪いわけじゃないんだけれど、若い層だけでなく年寄りもああいう風潮をはやしていたでしょう。マスコミもおかしい。自由民主党が昨年の衆院選の時、彼を「刺客」として出したのも許せない。出した人の責任も問われなければならない。
「相場で儲けたものは相場で取られる」という格言があるんだけど、最後まで相場で勝ち続けるのは本当に難しい。個人の趣味でちょっとやるのは別として、会社としては絶対にやってはいけません。これは当社の社是ですよ。前々代社長の故・小田切新太郎さんも言っていたし、私もそう考えています。
他社にできないことを続ける
ライブドアが時価総額世界一を標榜したのに対し、信越化学は自分たちが開発した商品を世界一にすることを目指していますね。
金川氏:既に塩化ビニール樹脂や半導体シリコンといった世界一のものがありますし、他の商品も同じように世界一を目指しています。しかし、常にそのポジションは脅威にさらされているわけです。いつ追い抜かれるか分からないし、商品自体がおかしくなるかもしれない。研究開発と製造技術の改良、そして独特のマーケティング。この3つを一緒にして、他社ができないことをやり続けなければならない。
他社との違いは何ですか。
金川氏:自分で言うのもおかしいんだけれど、最後は経営力だけですよ。うちは昔、塩ビの技術を米テネコ・ケミカルズや米ファイアストン・タイヤ・アンド・ラバーといった競争相手にライセンスしました。しかし現在では、両方ともつぶれている。技術は同じだから、違いは経営力しかありません。
塩ビでは製品の品質の差はあまりありませんから、むしろ生産の安定性が重要になります。量や納期がくるくる変わると需要家さんが困ってしまう。研究開発もずっと続けてきましたが、焦点はプロセスの改良とか生産性の向上に置いています。設備投資をしないで生産量を増やせれば、固定費は少なくて済みますからね。
ただし、作ったものが売れなければ話にならない。そのためのマーケティングが大事になります。
つまりはお客さんが大事。
金川氏:それも一朝一夕にはできません。需要家との関係にも良い時と悪い時があって、その時々で何をしたかが問われます。その積み重ねで、時間がかかるわけです。それで相手が信用できるとなったら、困っている時には助けてあげるし、僕らも必ず買ってもらうようにする。そういうふうにして、需要家のグループを作ってきました。
そういった重要な判断を、トップが責任を持って下す。煎じ詰めるとそれが経営力なんです。
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