(写真:shutterstock)

 社会の基盤となるものが整備されていない、またはうまく機能していないことが幸いして、既得権や過去の設備と関係なく最新の技術が導入される。新興国でしばしば起こるこの現象は「リープフロッグ」と呼ばれている。段階的に進化していくのではなく、カエル跳びのように一足飛びに進んでいくことを指す言葉だ。インドが進めているデジタル化政策「デジタルインディア」について調べると、リープフロッグを強く実感する。

 インド政府は国民IDシステム「Aadhaar(アダール)」を2009年に導入している。デジタルインディアを推進している電子情報技術省(MeitY)を訪問した際、担当官はアダールについてこう語った。

インド電子情報技術省にて、デジタルインディアの説明を受ける

 「アダール開発の背景には、貧困層への補助金の問題がある。貧困層に補助金を出そうとすると、従来の戸籍制度では戸籍を売ったり改ざんしたりして二重にもらうといった不正が横行し、機能しなかった。補助金のプロジェクトが始まったとき、インド国民の8割が銀行口座を持たず、補助金を正しく届けるのは難しかった。生体認証と携帯電話のSMSを組み合わせたアダールの仕組みにより、補助金プロジェクトを実現することができた」

 インド政府は運転免許や医師免許などもアダールに統合しようとしている。またアダールを基盤として、個人認証やキャッシュレス決済など、デジタルでの認証や経済活動のインフラとなる一連のオープンAPI群「インディア・スタック」の整備も進んでいる。

 12年以降は生体認証と携帯電話のSMSで個人特定ができるようになったことで本人証明のコストが低下し、貧困層も銀行口座が持てるようになった。インド政府はそれにあわせて16年に、決済公社NPCIによる送金・決済プラットフォームであるUPIを始動した。

 40ドル以下の送金手数料は無料、40ドル以上については0.3%を上限とするUPIは、インドの「Paytm」のほか「WhatsApp」や「Google Pay」など海外のサービスの基板にもなって、インドの低所得層に急速に広がっている。話題になった高額紙幣の廃止も、こうした電子決済の普及をより強く後押しするために行われた施策だ。

12億のアダールIDが発行され、日々アップデートを繰り返している

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