米中貿易摩擦が激化する中で、エンジニア同士の交流やオープンイノベーションは続いている。ソースを公開して検証可能にするオープンソースソフトウエア・ハードウエアの世界では、国同士の対立の影響を避けて交流することができる。深圳のスタートアップM5Stackは、米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービスであるAWSと連携して、IoTの開発を助けるボードを発表した。

 M5Stackは2015年に設立された。創業者でCEO(最高経営責任者)のジミー・ライは、中国の国営企業である大手電力会社、中国南方電網でエンジニアとして長く働いた後、M5Stackを起業した。

 社名であり代表製品でもあるM5Stackは、5cm×5cmサイズでスタッカブル(積み重ね可能)な開発ボードであることからその名が付いた。無線、ディスプレー、操作ボタンなどのプロトタイプ開発に必要な機能をあらかじめ備え、Arduino IDEやMicroPythonなどの主流の開発言語に対応している。使用CPUや主要部品、拡張ピンの仕様などを誰でも閲覧できる形で公開しているオープンなハードウエアであり、デファクトスタンダートとなっている4ピンのGrove互換コネクタで追加のセンサーなどをつなげて拡張できる。

M5Stackシリーズの1つCore2。Wi-Fi、Bluetooth、タッチパネルなどの機能を備えていて、これをベースにロボットやスマートメーターなど様々なIoTのプロトタイプの開発ができる
M5Stackシリーズの1つCore2。Wi-Fi、Bluetooth、タッチパネルなどの機能を備えていて、これをベースにロボットやスマートメーターなど様々なIoTのプロトタイプの開発ができる

 M5Stackのアイデアについて、ジミーは次のように語る。

 「中国南方電網の仕事で、様々なプロジェクトのために異なるスマートメーターのプロトタイプをたくさん作った。それぞれ異なるプロジェクトのために何十種類ものプロトタイプを作るうちに、ほとんどのスマートメーターにはディスプレーや操作ボタン、無線などの共通する機能があることに気がついた。そこで、ほとんどのスマートメーターに共通する部分までをキットにまとめれば、プロトタイプ作りをするエンジニアがとても楽になると考えたんだ」

 彼のアイデアは、シリコンバレーが本拠地で深圳に開発ラボを持つハードウエアスタートアップ・アクセラレーターのHAXに認められ、中国のスタートアップ投資を対象にしたHAX Chinaに選ばれた。中国ではベテランとも言える30代半ばで、国営企業に勤めていた中国人エンジニアは、深圳でハードウエアスタートアップの創業者となった。

 2017年に発売されたM5Stackは、まず開発者が多く新しい開発ツールへの注目度が高い日本のDIY市場で火がつき、その後米国を含め世界に広がっている。皮肉なことに中国市場ではまだまだとのことだが、日本ではそれまでデファクトスタンダードに近かったArduino(イタリア製の開発ボード)を置き換える勢いで普及が進んでおり、大学の研究や教育でも活用されている。まず大学の研究者がM5Stackの魅力に気づき、その後、講義などで採用する例が増えてきているようだ。

深圳で行われたDIYの祭典「メイカーフェア深圳 2019」に出展中のM5Stack。右端の眼鏡の男性がCEOのジミー・ライ
深圳で行われたDIYの祭典「メイカーフェア深圳 2019」に出展中のM5Stack。右端の眼鏡の男性がCEOのジミー・ライ

 今PoC(Proof of Concept、デモなどを作って新しいアイデアの概念を実証すること)などで必要とされるデモやプロトタイプの多くは無線機能を必要とするIoTだ。はんだごてや回路図を気にせずにIoTのプロトタイプを作れるM5Stackが、IoT以前の開発ボードから置き換わる流れは理解できる。

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