(写真:PIXTA)
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 2019年7月、中国のアリババ集団のプロセッサー開発会社、平頭哥半導体が、RISC-Vと呼ばれるオープンソースのアーキテクチャーをベースにしたプロセッサーを発表して話題になった。米国ではグーグルやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムなども独自プロセッサーの開発を発表している。

 米中のテックジャイアントがそれぞれ独自のプロセッサー開発に取り組む一方、市場で調達できるプロセッサーは性能の向上と低価格化が進み、汎用プロセッサーから様々な製品が開発されている。相反するようにも見える、この2つのトレンドは、どちらもムーアの法則とインターネットの普及が後押ししたものだ。

 次世代通信規格「5G」のような無線通信の高速化はムーアの法則の恩恵と言える。無線通信の高速化は変復調方式の高度化の結果であり、それを実現できる回路性能の向上はムーアの法則そのものだ。

 コンピューター=計算機の行う「計算」は、一般に想像されるものよりもはるかに広い範囲を指す。コンピューターが速くて安価になると、無線通信も進化する。5Gの要素技術の1つであるソフトウエア無線(SDR)も、それが実現可能なコンピューターが登場したことで可能になった。

 コンピューターは年々、性能が上がり、価格は安くなっている。スーパーコンピューターの性能が、10年ほどたつとゲーム機で実現できるようになり、やがては家庭用の炊飯器の制御コンピューターとして組み込まれる。今や腕時計や携帯電話でも複数のコアを持ったプロセッサーを使うことが当たり前になってきている。そうしたコンピューターチップの高速化・低価格化はムーアの法則と呼ばれている。

 米インテルの創業者の1人であるゴードン・ムーア博士が提唱したムーアの法則はもともと「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」というものだった。半導体の価格は製造面積で決まるし、処理速度はトランジスタの集積率で決まるので、集積率が倍になれば性能が倍、もしくは価格が半分になる。

 トランジスタの集積率は、今や極限まで微細化した回路が電子のサイズに迫って物理的な限界を迎えつつあるが、回路を縦方向に積層する方法やマルチコア化、プロセッサーの製造数増加によるスケールメリットなどにより、高性能化も低価格化もまだ限界を迎えていない。「あと数十年で限界」といわれながらイノベーションが生まれて限界を突破するさまは、まるで石油埋蔵量のようだ。

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