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 中国では2015年から、政府がスタートアップ支援を開始し、補助金と規制緩和によって「官製メイカーバブル」とも言える状況が出現した。中国各地に自由にものづくりができるメイカースペースや、DIY活動を支えるメイカー企業が粗製乱造されたが、政府による支援が下火になるとともに、中国のメイカーコミュニティーは冬の時代を迎えている。

 その中にあって、メイカーフェア深圳は、12年に第1回が開催された中国で最初のメイカーフェアであり、バブルとは無縁の「オリジネイター」である。前回も取り上げたように、11月9~10日に開かれた「メイカーフェア深圳2019」も深圳という街の魅力と、この街のメイカーコミュニティーが積み重ねてきた活動が反映された、素晴らしいメイカーフェアだった。

 しかし、その運営チームも15年からの3年間は中国政府の過剰な期待や誤解に振り回された部分もある。

 「21世紀の産業革命」とも呼ばれるメイカームーブメントは、14年に米国のオバマ大統領(当時)がホワイトハウスでメイカーフェアを開いたことで、一躍世界の注目を集めるものになった。その後、各国がDIYを通じた産業振興やメイカースペースの補助、学校でのメイカー教育などを始めるきっかけになった。中国でも15年にメイカームーブメントの中国的解釈とも呼べる「大衆創業・万衆創新」政策が始まった。

 「大衆創業・万衆創新」政策の象徴となったのが深圳だ。15年に李克強首相が当時はボランティアベースで運営されていたメイカースペース「柴火創客空間」を訪れ、DIYで作られたロボットアームを前にメイカースペースの会員証にサインする映像は、中国国内メディアで何度も流された。

 「大衆創業・万衆創新」は従来の大企業重視・エリート重視だった中国の政策の中では珍しく、草の根の活動や起業家・スタートアップを重視する政策だった。起業やベンチャーキャピタル開設の手続きを簡素化するなどの規制緩和と、メイカースペースの開設に対する補助金などが主な内容だ。規制緩和は現在も続いていて、中国を起業が盛んな国にした1つの要因になっている。

 政策の象徴となった深圳のメイカーフェアには政府の資金が注ぎ込まれ、15年のメイカーフェア深圳は世界でも最大規模の約20万人を集める巨大なイベントとなった。

2015年のメイカーフェア深圳。政府の資金も入り、巨大なイベントとなった

 一方で、セルフスタート・DIYといった要素を「お上」である政府がメディアを使ってプッシュするという構造は本質的に矛盾をはらんでいた。15年には「創客(メイカーの中国訳)」が流行語になった。それまでは目立たない存在だったメイカーを、何億人もの人々が知ったのはよいことだったが、その分、誤解も増えた。

 深圳でメイカー向け製品の販売などを手がけ、メイカーフェア深圳を立ち上げたSeeedのエリック・パンCEO(最高経営責任者)は15年、最大規模となったメイカーフェア深圳の場でこう語っていた。「よく知られるということは、よく誤解されるということでもある。深圳では『メイカー』という名前がはやりすぎて、『メイカーヘアサロン』まで出てきた。もちろん名前だけのものだ」

well known and well misunderstood(よく知られるということは、よく誤解されるということ)