中国の政府系シンクタンク、中国情報通信研究院は2020年10月16日、オープンソースエコシステム白書を公表した。同白書が発行されるのは初めてのことだ。

 中国情報通信研究院は1957年に設立された郵電科学研究院を前身とする、情報通信分野で中国を代表するシンクタンクの1つだ。工業情報化省の下、外国の通信規格の中国国内でのテストや標準化対応など、日本では総務省や産業技術総合研究所が担っているような役割もある。

 日本では総務省が「情報通信白書」を発行しているが、中国情報通信研究院も「デジタル経済発展白書」「インターネットセキュリティー産業白書」など、中国の情報通信に関する白書を発行している。

中国情報通信研究院は情報通信分野の様々な白書を発行している

 政府の一部とも言える組織が、オフィシャルに「オープンソースエコシステム白書(開源生態白皮書)」を発行するのは、中国でのオープンソース運動の盛り上がりや、政府から見た戦略的な位置付けを感じさせる。白書は78ページに及び、同時期に発表された「ICT産業イノベーション発展白書」(55ページ)や「中国ブロードバンド発展白書」(47ページ)よりも多く、力が入っていることをうかがわせる。

中国社会にオープンソースの世界を紹介

 初めて発行される白書だけあり、多くのページは「そもそもオープンソースとはどういうもので、世界ではどのように使われているか」に費やされている。

 分析は多方面にわたった見事なものだ。ソースコードを公開し、共同で開発することの効果や意味について、米グーグルなど世界的な大企業の取り組みや、米国や韓国が政府調達にオープンソースを一部条件づけていること、どのようなオープンソースソフトウエアが人気で多く使われているかということなどについて、分かりやすい解説がなされている。

 2018~19年の1年間で、オープンソース開発プラットフォームである「GitHub」の利用者は44%も増加した。増加分の多くはアジア・アフリカからのプログラマーによるものだった。中国がオープンソースにアクセルを踏むのには合理的な理由がある。

 一方で、メンテナンスについて自分で責任を負わなければならないことによるセキュリティーホールの放置や、ライセンスの無理解による訴訟など、オープンソース特有の危険性についても分析がなされている。

 また、ソフトウエアそのものだけでなく、オープンソース運動が進展するための組織についても多くのページが割かれている。オープンソースソフトウエアの普及促進やライセンス策定などを行っている、フリー・ソフトウエア・ファウンデーションやアパッチ・ソフトウエア・ファウンデーションなど支援組織の仕組み、委員会などのガバナンスや、それによりどういうプロジェクトが進んだかも紹介。「政府への中国オープンソース発展の提案」として、中国でもそのような組織が必要だと説いている。

 実際に中国では、中国情報通信研究院と同じ工業情報化省の配下に、中国でオープンソース運動の普及や、ライセンスの整備などを担うOpen Atom Foundationが設立されている。

続きを読む 2/2 金融分野で積極的に採用、中国オープンソースの現在地

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