9月30日、タイの国家科学技術開発庁(NSTDA、National Science and Technology Development Agency)が主催する学生デザインエンジニアリングコンテストが開かれた。コンテストで受賞したクオリティーの高い作品からは、起業家を育てるタイの教育プロジェクトが実を結びつつあることが感じられる。

 ここ数年、タイ政府は新しい形の教育に多大な投資をしている。タイ全土の高校にデジタル工作機械を備えたものづくりルームを整備。IoT教育プラットフォーム「KidBright」をタイ国内で開発し、IoT開発ボード20万枚を各学校のものづくりルームに配備した。

 今回、日本の高校生年代に当たる15~18歳を対象に行われた学生デザインエンジニアリングコンテストは「コミュニティーのためのイノベーション」がテーマだった。各学校のものづくりルームで生徒たちがチームを組み、実際にタイの社会が直面している課題を解決するプロジェクトを、きちんと動く形でつくり上げる。

 例えば「サステナブルな農業」部門で受賞したメーサリアン高校のプロジェクトは、タイ北部産の貴重なランを栽培するための温室だ。IoTセンサーを用いてスマートフォンと連携し、温度や湿度を調整。水や肥料を自動で与える。これまでの温室に比べて広い範囲で栽培でき、開花時間も2倍に延びるという。

メーサリアン高校の学生たちが開発したIoT温室。これまでの温室に比べて広い範囲でランが栽培でき、開花時間も2倍に延びる(写真:タイ国家科学技術開発庁提供)
メーサリアン高校の学生たちが開発したIoT温室。これまでの温室に比べて広い範囲でランが栽培でき、開花時間も2倍に延びる(写真:タイ国家科学技術開発庁提供)

 コンテスト審査員の1人で運営にも携わったモーン博士は次のように語る。「このチームの最も素晴らしいポイントは、彼らがランについてよく知っていたことだ。ランの産地であるメーサリアンで学ぶ生徒たちは、どういう環境でランが育つかを知っていて、それをパラメーターとしてIoT温室に与えた。温室そのものもリサイクルした素材で作っているし、温度をコントロールするエアコンも廃棄されたものを利用している。スマホアプリとの連携も見事だ。しかし、最も素晴らしいポイントは、ランのことをよく知っている子どもたちが、ランを育てるソリューションを作ったことだ」

受賞したメーサリアン高校の生徒たちと先生。同校はタイ北部のランの産地にある (写真:タイ国家科学技術開発庁提供)
受賞したメーサリアン高校の生徒たちと先生。同校はタイ北部のランの産地にある (写真:タイ国家科学技術開発庁提供)

メイカー教育、起業家教育が実を結びつつあるタイ

 コンテストにはタイのほぼすべての高校に当たる100校が参加した。農業部門で受賞したメーサリアン高校の他にも多くの受賞作が生まれ、いずれも高いレベルにある。

 これは突然変異的に素晴らしい生徒が出てきたという話ではなく、タイ政府がここ数年取り組んでいた投資が実を結んだ結果だ。

次ページ 部署の違いを超える、さらにはASEAN各国との連携まで