中国は新型コロナウイルスの抑え込みに成功しており、製造業はほぼ回復している。ところが、出荷先である欧米の経済が落ち込んでおり、続いていた賃金の上昇が止まるなど、経済全体の勢いは落ちている。深圳でEMS(電子機器の受託製造サービス)を手掛け、日本企業の製品の製造を請け負うJENESISの藤岡淳一社長は「単純な組み立ての外部移転、人気のデバイスに集中するエコシステム、スタートアップの隆盛というここ数年のトレンドは、新型コロナでむしろ加速した」と語る。

JENESIS深圳の製造ライン。藤岡氏は9月1日、東証1部に上場しているJNSホールディングスの代表取締役に就任した。日本向けのICT機器を製造するJENESIS深圳は中国子会社で、増える注文に備えて射出成型工場を増設するなど、拡大を続けている
JENESIS深圳の製造ライン。藤岡氏は9月1日、東証1部に上場しているJNSホールディングスの代表取締役に就任した。日本向けのICT機器を製造するJENESIS深圳は中国子会社で、増える注文に備えて射出成型工場を増設するなど、拡大を続けている

変化の激しい深圳、ロットの小さい日本企業の発注ますます難しく

 筆者らが執筆した書籍『プロトタイプシティ』(KADOKAWA)は、深圳などの新興都市を題材に、イノベーションを生み出す仕組みについて分析している。出版に際し、執筆者らが本書の内容を紹介するイベントを行い、筆者の1人である藤岡社長は、新型コロナによる深圳の変化について語った。

JENESISの藤岡淳一社長が登壇したイベント

 数多くの中小の製造業が集積することによって成立している深圳のエコシステムは、「安くて低品質」から「値段は高いが品質も良い」まで多様なニーズに対応してきた。深圳のスピードの速さやフレキシブルさは様々な注文に対応できる柔軟さを保ち続けてきた。一方で人気のない製品カテゴリーが一気になくなってしまう難しさもある。

新圳の電気街、華強北にある明通デジタル城。現在は輸入化粧品の店が並ぶようになっており、外壁にも化粧品の広告が掲げられている。スマホ市場は中小企業が切磋琢磨(せっさたくま)する状況から洗練された大手がシェアを握る状況に変わってきている
新圳の電気街、華強北にある明通デジタル城。現在は輸入化粧品の店が並ぶようになっており、外壁にも化粧品の広告が掲げられている。スマホ市場は中小企業が切磋琢磨(せっさたくま)する状況から洗練された大手がシェアを握る状況に変わってきている

 例えば、新型コロナによりタッチパネルでの対応が求められているため、タブレット端末の需要は一気に上がっている。しかし、数年前であればカスタムタブレットを作ってもらうのは容易だったが、現在は深圳のエコシステムが変わってしまい、すぐに作ってもらうのは難しい。

 こうした変化は3つの要因が組み合わさっていることによる。

  1. 今回の新型コロナに限らず、米中貿易摩擦や深圳のコスト上昇などから、香港系を含む外資の工場がベトナムに移る流れがあり、長期で見ると工場そのものが減っている。
  2. タブレット市場の寡占化が世界的に進んでいたので、カスタムタブレットを作る会社がかなり減っていた。
  3. こうした変化が進んでいたところに、新型コロナによるカスタムタブレットの需要急増が発生したため、残っている数少ない会社に注文が集中してしまい、小ロットの注文は後回しにされがちになった。

 そのため、1回の注文が数千台規模の小ロットを得意としているJENESISは対応に困ることが増えたという。

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