8月3日、4日の2日間、東京・有明の東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2019」が開催された。今年は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの準備工事のため、会場は2018年に比べて30%ほど縮小した。それでも多くの人が会場を訪れた。
DIY愛好家の祭典であるメイカーフェアは、2014年に米国のバラク・オバマ前大統領がホワイトハウスで開催したことで、世界の注目を集めた。大統領がオバマ氏からドナルド・トランプ氏に変わったことで、ホワイトハウスでのメイカーフェアは2016年を最後に開催されていない。しかし、米国のDIY関連に対する予算はむしろ増えている。技術が高度化するにつれて、専門家同士の距離が遠くなった。異なる分野の融合によって起こるイノベーションが難しくなる中で、「分野を超え、自分の手でモノづくりを楽しむ」人々の集まりであるメイカーフェアへの期待は大きく、開催国が増え続けている。
前回、ちょっとした思いつきからアイデアをより良いものにしていき、多くのプロジェクトを起こすことで、大衆から生まれるイノベーション「マスイノベーション」につながるという話に触れた。限られたエリートたちに集中投資し、既存の研究の積み重ねで一歩一歩進化していくタイプのイノベーションと違い、社会実装イノベーションとも呼ばれるマスイノベーションでは、新たなアイデアに多くの人が触れて、仲間やファンになってもらうことが重要になる。もともと新しいものを作り出すのが好きなDIYの愛好家たちがまずファンになり、場合によってはプロジェクトそのものを助け、一般の人たちにも広がっていく。こうした循環を生み出す上でメイカーフェアは非常に貴重な場になっている。
メイカーフェアは2006年にサンフランシスコに近いサンマテオで初めて開催された。
米国の出版社、オライリーのデール・ダハティ氏は自作の機械でカボチャをどれだけ遠くまで飛ばせるかを競う『カボチャ投げ選手権』のような、自作したものを見せ合うお祭りをつくりたいとメイカーフェアを始めた(その後、メイカーフェアの部門はオライリーから独立し、メイカーメディアとなった)。実際、米国のベイエリアのメイカーフェアは、ヒッピー精神があふれる奇想天外なプロジェクトをたくさん見かける。


お祭りとしてのメイカーフェアの楽しさは、どこの国でも変わらない。ただ、アジアでのメイカーフェアは技術開発や起業促進などイノベーションを起こすための装置としての側面が強まっている。
バンコクのメイカーフェアは、産業振興のための規格策定や研究開発プロジェクトを担当するタイのNSTDA(National Science and Technology Development Agency)が主催している。アジアではこのように公的機関や教育機関がDIYのお祭りを主催する例が増えてきている。
カンボジアやフィリピンでも開かれたメイカーフェア
東南アジア最初のメイカーフェアはシンガポールで開かれた(当初はミニメイカーフェアとして開かれ、その後、メイカーフェアとなった)。シンガポールのメイカーフェアは一貫して教育省の配下にあるサイエンスセンターシンガポールが運営している。学校の試験科目にエレクトロニクスやロボティクスが組み込まれるなど、シンガポールは国ぐるみでマスイノベーションを根付かせようとしている。
人口約2400万人の台湾では2016年、台北、新北、新竹、台南と、年に4度もメイカーフェアが開かれた。それぞれ別の組織が運営しているが、台南では大学と産業振興をつかさどる組織が連携して、タイに近い形で開催している。
そのほか香港、マレーシアのペナン、カンボジア・プノンペン、韓国・ソウル、フィリピン・マニラでメイカーフェアが開催されている。中国では深センだけでなく北京、西安、成都、杭州などでも開かれた。「上海メイカーカーニバル」のようにメイカーフェアを名乗らないイベントも各地で行われていて、この1~2年で爆発的に増加している。筆者は誰よりも一番たくさんアジアのメイカーフェアに行っていると自負しているが、2018年以降は追いかけきれないほどDIYのイベントが増えた。
2019年6月、メイカーフェアの旗振り役であるメイカーメディアが経営破綻したというニュースは世界のDIY愛好家を驚かせた。世界で開催されるメイカーフェアに対してライセンスを発行しているメイカーメディアは資金難に陥って業務を停止。8月にメイカーコミュニティーという別会社を立ち上げ、業務を引き継いで再スタートしたと報じられた。だが、こうしたニュースにもかかわらずアジアを中心とする世界各地でメイカーフェアが続々と開催されているのは、各国政府がメイカーフェアをマスイノベーションの土壌として有効だと考えられているからにほかならない。
現在のイノベーションの多くは、実際に動くプロダクトを愛好家に見せるところから始まる。異なるバックグラウンドを持った愛好家たちにアイデアを披露し、実際の製品を見てもらい、知見を深め合うことが不可欠だ。前回取り上げたメイカースペースがコミュニティーの核だとしたら、メイカーフェアはその核同士をつなげてより広いネットワークをつくることができる。
アジアの各地で開催されるメイカーフェアを訪れると、東京でも香港でもシンガポールでも会う知り合いがいる。彼らは国境を越えて自分たちのプロジェクトを拡大させようと、様々なメイカーフェアに参加しているのだ。メイカーフェアにも開催場所によって特徴がある。例えば、深センなら量産、東京ならクリエーティビティー、シンガポールならSTEM(科学・技術・工学・数学)教育といった具合だ。各地で特徴あるメイカーフェアが数多く開催され、プロジェクトを持ち寄る人が増えていけば、マスイノベーションの大きな苗床となるだろう。
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