(写真:PIXTA)
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 筆者らが執筆した書籍『プロトタイプシティ』(KADOKAWA)は、深圳などの新興都市を題材に、イノベーションを生み出す仕組みについて分析している。出版に際し、執筆者らが本書の内容を紹介するイベントを行い、筆者の1人である東京大学の伊藤亜聖准教授は、新興国でのデジタルサービスの社会実装が先進国よりも先行する可能性に着目し、「デジタル新興国」という考え方を提起した。

 これまで「新興工業国」という言い方はあった。人件費の安さにより、生産地が移転し、工業国へと経済発展したことを意味する。それに対し、先進国は先進的なテクノロジーを持っていることを意味し、特にデジタル技術の発展史についてはほぼ米国と英国だけで形づくられてきた。だが、スマートフォンの登場以降、それ以前とは違った状況が生まれている。

固定電話の普及率はその国の1人当たりGDPにおおむね比例するが、携帯電話の普及率は1人当たりGDPが低い国でも高い(出所:2020年8月7日開催のオンラインセミナー「先進国と新興国、それぞれのデジタル化」の配信画面より)
固定電話の普及率はその国の1人当たりGDPにおおむね比例するが、携帯電話の普及率は1人当たりGDPが低い国でも高い(出所:2020年8月7日開催のオンラインセミナー「先進国と新興国、それぞれのデジタル化」の配信画面より)
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 ネットワークインフラの普及率と国内総生産(GDP)を比較した図がある。固定電話やインターネットでについては1人当たりGDPとインフラ普及が比例している。だが、携帯電話になると、1人当たりGDPが5000ドルを下回るような新興国でも十分に普及しており、時にはより豊かな国を上回る。

 中には「新興国のほうが先進国よりも社会実装が進んでいるデジタルサービス」も出てきている。例えばインドでは、米国発のライドシェアサービスの「Uber」が、現地のオート三輪をネットワーク化する形で広まっている。

 イノベーションを起こすためには、Research&Development(研究開発)が必要と言われる。しかし今は、それに加えて技術を社会にDeploy(実装)することがとても重要になっている。新興国はもともとのインフラが未整備な分、デジタル技術が素早く大規模に社会実装され、その結果、新興国ならではのデジタル化が起きるというわけだ。

 インフラ整備が不十分な新興国では、スマートフォンを通してIDや銀行、エンターテインメント、教育など公的なものも含む様々なサービスにアクセスすることができる。それにより一部では先進国を上回る速度で新しいデジタルサービスが社会実装され、リープフロッグ(カエル跳び)型の経済・社会の発展が進むかもしれない。

米ウーバーテクノロジーズは、インドで三輪のオートリキシャの配車サービスを提供している。それまでリキシャを利用する際は価格交渉が必要だったが、信頼できて呼びやすいため既存のリキシャの利用方法よりも好まれており、広まりつつある(出所:2020年8月7日開催のオンラインセミナー「先進国と新興国、それぞれのデジタル化」の配信画面より)
米ウーバーテクノロジーズは、インドで三輪のオートリキシャの配車サービスを提供している。それまでリキシャを利用する際は価格交渉が必要だったが、信頼できて呼びやすいため既存のリキシャの利用方法よりも好まれており、広まりつつある(出所:2020年8月7日開催のオンラインセミナー「先進国と新興国、それぞれのデジタル化」の配信画面より)
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伊藤亜聖・東京大学准教授「先進国と新興国、それぞれのデジタル化」 #プロトタイプシティ出版記念トーク

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