2019年のResearch at Scaleには筆者も協力者の1人として参加しており、研究者たちと一緒に深セン・東莞の工場地帯をまわっている。筆者は深センに駐在しており、毎日部品に囲まれて暮らしているので、この街のInventory、つまり「在庫」の部分に心を奪われている。深センにある華強北電気街の巨大なエコシステム、そして深セン周辺のハードウエア製造業者群は「あらゆるものがこの街で作られている」ことを実感させる。

 中国で流通するコモディティー化した共通部品を組み合わせて新製品を作るエコシステムを知れば知るほど、「なるべく作らないで、手に入るものを組み合わせる」方向に思考が向いてしまう。だが、製造工程のそばにいることは、いろいろな「ものの作り方」を知る最適な方法でもある。「充電池と制御回路を買ってきてバッテリーを自分で組み上げる」といった経験や「制御回路そのものの仕組みについて詳しく説明し、自分で回路を作る」といった経験は、この世にないものを作るためのいい修業である。

「中国を見るとものの作り方に注意がいく」

 「あらゆるものが製造されている中国にいると、作り方に関心が向く」。バニー・ファンと同じ意味の言葉は、中国に住むセネガル人のソーラ氏からも聞いた。ソーラ氏は世界最大の雑貨マーケットがある中国浙江省の義烏で貿易商を運営している。

 ソーラ氏は世界各地で10年以上も貿易商として活動してきたが、最近は母国セネガルに工場を作り、樹脂でできたパイプや水タンクの製造を始めた。「義烏に来る前はドバイで貿易をしていたが、貿易だけをしているころは何を見ても『いくらで買えて、いくらで売れるか』しか考えていなかった。ところが義烏のまわりにはたくさんの工場があり、義烏の市場で販売されている雑貨の多くを作っている。貿易をする中でいくつも製造工場をまわるうち、いつの間にか何を見ても『これはどうやって作られているか』について考えるようになった」(ソーラ氏)。その中で、セネガルで作ることで最も効率化できそうなものとしてタンクやパイプの製造を思いついた。

 セネガルなどアフリカ諸国はまだ生産設備が少なく、多くのものを輸入に頼っている。ソーラ氏は水道パイプの貿易をしていたが、コストの大部分を輸送費が占めていた。パイプやタンクの輸送は空気を運んでいるようなものだ。

 ソーラ氏は実際にパイプやタンクを作っている工場を訪ね、完成品のパイプに比べて原料の樹脂が小さくて輸送しやすいことや、製造設備があれば作るのは難しくないことを理解した。そこで、材料を輸入してセネガルで製造するビジネスを始めたという。

 先進国では、需要変動への機敏な対応や設備投資に対するリスクを減らすため、製造現場を切り離す動きが進んできた。一方で、電子機器などを自作するメイカームーブメントによりハードウエアの開発がこれまでにないほど身近になり、大学の研究室やベンチャー企業でも自前のハードウエアを作り始めている。だからこそ製造まで含めたR&Dの重要性が増していると言えるだろう。

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