米マサチューセッツ工科大学にあるMITメディアラボの研究者で、ハードウエアスタートアップのアイデアを量産化することについての第一人者であるバニー・ファン氏は、深センの価値を「Inventory(在庫)とCapability(能力)にある。あるものを買ってくるのでなく、欲しいものを作るように考え方を変えることは、研究者にとって価値がある」と語る。

深センで研究者たちに向けて、ものを製造する上での注意を語るバニー・ファン
深センで研究者たちに向けて、ものを製造する上での注意を語るバニー・ファン

 例えばUSBケーブルを調達しようとするときに、普通はコネクターの形と必要な長さに考慮して店で売っているモノを買う。80cm、1m、3mという具合だ。一方、深センで工場と知り合いになると、好きな長さで作ってもらうことができる。

 既にあるものをベースに考えて手間を省くことは大事だが、それと同じぐらい「どうやってこれを作っているか」を理解し、自分が欲しいものが世の中になさそうなときに「どうやれば手に入れられるか」を考えることも大事だ。作り方が分かれば、そこから別のものを作ることもできるし、市場としてはニッチだが自分の目的には重要な、この世にないものを作ることもできる。

 バニー氏が起業したスタートアップの「チビトロニクス(Chibitronics)」は、そうした製造方法への理解から新製品を生み出したベンチャーだ。通常は液晶と電子基板の接続などに使うフレキシブル基板を用い、ハンダ付け不要で子供が電子工作を学べる製品を発明した。バニー自身がMITの博士課程の学生、ジー・チー氏をサポートしているときに、「ハンダ付け不要でシールのように貼り付けられるステッカー基板を、フレキシブル基板の技術を転用することで作ることができる」と思いついたことで、スタートアップが生まれた。

 バニー氏はMITメディアラボの研究者を対象に、研究成果を量産して起業やクラウドファンディングなどの社会実装に近づけるプロジェクト「Research at Scale」の主催チームの1人でもある。毎年数名の研究者と一緒にほぼ1カ月、深センや東莞の工場地帯を研究者たちと一緒にもの作りのためにまわり、研究の社会実装を後押ししている。

 バニー氏の研究者たちへのアドバイスは一貫している。例えばセンサーがコアの研究であれば、売っている同種のセンサーを買い集めるだけでなく、実際に工場に行ってそのセンサーが製造されている様子を見て、製造工場とともにカスタム品をつくる可能性を模索する。「今あるものがどうやってできているかを把握することで、今ないものを作ることができる」というのは「Research and Development(R&D、研究開発)の本来の意味でもある。非常に研究者らしいやり方だ。

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