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 この連載のタイトルの「世界の工場の明日」という言葉には、2つの意味が込められている。1つはもちろん、これまで「世界の工場」と呼ばれてきた珠江デルタ一帯、特にその中心となっている深センの未来について考えるという意味だ。世界の工場だった深センはイノベーションの中心地とも呼ばれるようになった。

 もう1つは「明日の世界の工場がどこになるか」を考えるという意味だ。世界の別の場所が新たなイノベーションの中心地になり得るということ、例えば「未来の世界の工場はフィリピンかもしれないしベトナムかもしれない。もちろん日本である可能性もある」といったことについて考えていきたいと思っている。

 このタイトルを決定したのは、4月にレバノンのベイルートを訪問していたときだ。ベイルートに本拠を置くハードウエアスタートアップの話を聞いているうちに「今はどこでもイノベーションの中心地になり得るのだな」と感じた。

 テクノロジーへのアクセスはますます民主化・大衆化され、現在の職業などに関係なく学べるようになってきている。

技術で生活が変わったことへの感動

 新興国を訪れるたびに、テクノロジーで実際に生活が進化しつつあることを日々感じる。

 6月にフィリピン・マニラで開かれたメイカーフェアでも、フィリピンからイノベーションが生まれる兆しが見られた。

 フィリピンのタクシーは相変わらず運賃の交渉をしなければいけないし、質の悪い運転手も多いが、タクシー配車/シェアライド大手のグラブのアプリが普及していて、このアプリを使えば安全なタクシーを呼ぶことができる。スマホ、GPSと地図によるカーナビ機能、配車アプリはフィリピンのタクシーを、運賃は安いまま一気に先進国並みにした。米国で流しのタクシーに乗るよりもフィリピンでグラブのアプリを使って読んだタクシーに乗るほうが安心できるかもしれない。

 グラブはマレーシア人の起業家が開発したアプリで、米ウーバーテクノロジーズの後追いに近い形で始まったが、アメリカ製のアプリと違い、それぞれの国情にあった機能を提供している。例えば、クレジットカードの普及率が低い国ではコンビニなどでチャージして使うことができる。

 メイカー向けのイベントであるメイカーフェアが行われたマニラのボニファシオ地区はピカピカのショッピングモールやコンドミニアムが並び、夜中まで女性が1人で歩けるような治安が保たれていた。そうした経済や社会の成長もテクノロジーに後押しされていて、日々アプリへの機能追加や、街の進化を体感することができる。このような「技術で生活が具体的に変わった」体験が、新興国の人々をさらなる技術の習得と利用に向かわせる。

ボニファシオ地区の繁華街。夜中まで多くの人が行き交い、若者や女性が1人で歩いても不安を感じない