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 テクノロジーの進化と、新しいテクノロジーの普及の速度がますます上がっている。どんな商売をするにしてもテクノロジーの利用は不可欠になり、米国でも中国でも、要望に応じてシステムを受託開発する「SIer」という業態は衰退し、自社で開発することが当たり前になっている。

 新たに開発されるシステムが増え続けていることを背景に、「データベース」「プログラムの実行環境」など、システムに必要な要素をサービスとして提供する企業も増えてきた。こうしたサービスは米アマゾン・ドット・コムや中国のアリババ集団も手掛けている。インターネットを利用したシステムをつくる際に、自社ですべてを賄う考え方は完全に時代遅れになり、さまざまなサービスを利用して、自社で必要な小さな部分のみを素早く開発する手法が主流になってきている。

 このようなやり方でスタートアップを立ち上げる「リーン・スタートアップ」がシリコンバレーでは一般的になっている。リーン・スタートアップの「リーン」は「ムダがない」という意味もあるので、計画重視と捉えられることもある。だが、この場合は「いちばん大事なことだけやる」と訳されるべきだろう。

 リーン・スタートアップは、「長期計画を立てるのでなく、できる限り早くモノになる製品やサービスを作り上げて、その結果を得て次を考える。失敗したら考え直す」という手法だ。失敗や方向転換を伴う試行錯誤を前提にした、MVP(Minimum Viable Product)を中心に、そのときできることを素早くこなしていくことを指す。そもそもリーン・スタートアップという考え方が生まれたのは、会社が肥大化し、成功が確信できるまでスタートできないという鈍重さに対してのアンチテーゼからだ。

 中国・深センのベンチャー起業家を見ていると、ハードウエアを製造する工場という資産を抱えている人が多いにもかかわらず、「日銭」と「今、自社が提供できる価値」つまりMVPを中心にした「リーン・スタートアップ経営」が生来のものとして身についているように感じられる。

 中国には「第一桶金」という言葉がある。「最初に稼いだまとまったお金」というような意味だ。何らかの商売(例えば身一つで始められるサービス業や、手持ちの工場で製造請負など)で稼いだお金によって、投資する余裕が生まれたところで、自社製品の開発といった多少リスクを伴う勝負や、新しい社員の採用によるビジネス強化に打って出る。これはMVPや早めのピボット(方向転換)といったリーン・スタートアップの考え方そのものでもある。

 アリババ集団、騰訊控股(テンセント)、華為技術(ファーウェイ)、小米(シャオミ)など現在の中国で隆盛を誇る大企業の創業史をまとめた『現代中国経営者列伝』(高口康太)では、多くの会社が最初に始めた売とは異なるビジネスを中核に据えていることが分かる。