新型コロナウイルスの猛威が世界に広がっている。いち早く感染者拡大から抜け出しつつある中国だが、経済に与えたダメージは大きい。2020年1~2月の中国の経済統計はほとんどの項目が大きくマイナスとなった。

 ただ自宅から出ない生活で必要となる製品は伸びた。カップ麺の売り上げは前年同期比11.4%増、アルコール飲料は15.6%増といった具合だ。もちろん、最も売れている製品はマスクだ。1~2月の売り上げは全国的な品不足にもかかわらず127.5%増。その後、急速に製造が拡大したので、さらに売り上げは伸びているだろう(出典:丸川和雄「コロナショックと中国経済」)。

 3月21日、中国の国家発展改革委員会は「40日間のマスク製造強化施策の結果、福建省だけで1日2000万枚のマスクが製造されている」と発表した。これは平常時の10倍を超えるそうだ。プレスリリースには、280の防疫製品メーカーに合計1500万元(約2億3000万円)の資金が投資されたとある。

 中国全体で合計5億枚近いマスクが製造されていて、福建省はその中でも大きな供給元だと、リリースは伝えている。とはいえ、1日2000万枚を製造しているという福建省の人口は3911万人である。5億枚のマスクを製造しても中国全体には14億人の人々がいる。1人が1日1枚を使うとすると、製造拡大はまだまだ続くのだろう。

 現在使われているマスクの多くは不織布で作られている。不織布は石油製品で、大規模な製造設備が必要なものだ。中国では急ピッチで増産を進めているが、市場に出回るまではタイムラグがある。現在の製造拡大は電子機器でいえば「組み立て」の部分が改善してきたことによる。

マスク製造機も続々登場

 マスクの需要が急拡大していることで、中国ではマスク製造システムが急速に進化中だ。中国での数多くの取材をしているジャーナリストの高口康太によると、紫光集団傘下で深センに本拠を置く半導体会社、紫光同創(PANGO MICROSYSTEMS)は、FPGAと呼ばれる集積回路を採用した超高速マスク製造プラットフォームを発表した。

紫光集団のプレスリリース
紫光集団のプレスリリース
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 FPGAはハードウエアとしての論理回路をプログラムで変更できる半導体だ。高速処理が必要だがあまり量産されない製品での採用が多い。高速な応答速度を求められる画像処理やビットコインのマイニングなど、特殊な計算を高速に行いたいときなどに使われる。ビットコインのマイニングも、最初は通常のコンピューターを大量に用意するところから始まり、高速化に対する投資が集まるようになってFPGAによるマイニングが行われるようになり、最終的には専用のLSI(大規模集積回路)が登場するに至った。

 紫光同創のプラットフォームは産業用ロボットの心臓部として設計されているコントロールボードだ。

 リリースには「マスク製造のための複数の工程、折りたたみ、貼り合わせなどを、多くのモーターを同期して高速で制御するために開発されたプラットフォーム。産業用ロボットの心臓部に使うことで、秒当たりのマスク生産量を向上させる」とある。モーターの制御回路をFPGA内部に作り込んで並列に動作させれば、たしかに高速化にはつながるだろう。

 これまでのマスク製造では秒当たりの速度を上げるために投資をするほどのニーズがなかった。こうしたロボット制御プラットフォームが登場したのは、高速製造がビジネスになるほど、資本投下が行われている証しだ。さすがに、ビットコインのときのように、さらなる効率化を目指して専用LSIが出てくるほど製造ビジネスが過熱するかは分からない。

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