「コロナ対策で研究開発型のスタートアップを育てる中国の深謀」でもお伝えしたように、新型コロナウイルスの影響で世界経済が減速する中、中国では研究開発型ベンチャーへの投資が加速している。現在の利益を狙うビジネスは世界的な不況の影響を受けるが、自動運転や宇宙旅行といった未来へ向けた研究開発は、現在の不況の影響が株価に及びづらい。米国でもスペースXが大規模な資金調達に成功し、テスラの株価が高騰するなど、研究開発型ベンチャーへの資金の流れは世界的な傾向だが、何事もはやりに乗ってダイナミックに動く中国では、その傾向がより強く出ている。

 長期的な視点での投資は研究開発に限らない。コロナ禍が広がっていた2020年4月、深圳では「SDGsなど社会に貢献する事業に投資するファンド」の1つとして、羲融善道(HEROAD)が設立された。

羲融善道(Heroad)は社会的価値の高い活動を事業化する会社に投資する。
羲融善道(Heroad)は社会的価値の高い活動を事業化する会社に投資する。

 羲融善道はもともとエンジェル投資家として長く活動していた5人の投資家が資金を出し合って始めたファンドだ。良いことで経済を回す、「善経済」を提唱している。

 善経済はおそらく2019年にノーベル経済学賞を受賞したアビジット・バナジー氏らの著書『Good Economics for Hard Times』(邦訳は『絶望を希望に変える経済学』)から取った言葉ではないだろうか。羲融善道のオフィスの本棚には『貧乏人の経済学』などのバナジー氏らの著作や『ファスト&スロー』(ダニエル・カーネマン著)など行動経済学の名著がたくさん置いてあった。『Good Economics for Hard Times』の中国語のタイトルは『好的経済学』だが、善経済のほうが会社の狙いを的確に表している。

羲融善道の本棚。行動経済学の名著が並ぶ中に『論語』もあるのが面白い
羲融善道の本棚。行動経済学の名著が並ぶ中に『論語』もあるのが面白い

 羲融善道は本体のファンドのほかにインキュベーターと公益法人(NPO)の複数の組織を持ち、「善経済につながる企業への投資」「善経済につながる活動を事業として成立させ、企業へと育成するインキュベート」(関連会社で実施)、「善経済につながる公益活動」(関連NPOの基金会が実施)を行っている。

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