タイでは科学技術省の傘下にある国立科学技術開発庁(NSTDA)がSTEM教育の取り組みを進めている。課題解決のコンテストを数多く開いているほか、学校に3Dプリンターなどのデジタル工作機械を備えたメイカースペースのような場所を作っている。

工作スペースにマイコンを使ったIoTのプログラミング環境を提供するため、NSTDAが中心となって「KidBright」というマイコンボードと「KidBright IDE」というプログラミング環境、そして「Netpie」というデータを蓄積するためのクラウドを構築している。以前のリポートでも伝えたGravitechという企業が製造しているKidBrightは、タイの中学・高校に20万台が配布された。
KidBrightを配布しているNSTDAは「AI Thailand」というスローガンを唱えているので、次世代のKidBrightとその開発環境はAI機能を備えるとされている。

政府のソフトを市井のメイカーが勝手にオープンソースに
一方でKidBright IDEはNSTDAが独占開発しており、タイにも育ち始めている市井の発明家たちやメイカーコミュニティーにそぐわない。それでもKidBright IDEはブラウザ上で動くので解析は難しくない。
タイのメイカーたちはKidBright IDEを解析し、KB IDEという独自のオープンソースの開発環境を公開している。KB IDEはKidBright以外の、「Arduino」や「Raspberry Pi」といった多くのマイコンボードをサポートする。タイではプログラミング言語の「Python」や Arduino、Raspberry Piといった技術分野ごとに、それぞれ1000~2000人規模のコミュニティーがあるといわれている。KB IDEはそれらのギークたちをベースに支持を伸ばしている。街のメイカースペースで使われているのはKB IDEだ。

メイカーフェアバンコクの運営委員長でもあり、以前はNSTDA職員としてKidBright IDEの開発に関わっていたMorn博士は今、SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)という組織で、各国で連携してSTEM教育を推進させる仕事をしている。彼はKidBright IDEを巡る現状を、「政府が中心になるのは構わないが、オープンソースソフトの開発のように、リポジトリ(貯蔵庫)を公開して市井からのアップデートも取り込んでいくようにしたほうがいいのだが、政府機関だと難しいかもしれない」と語る。
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