全3086文字

 アジア全体でプログラミング教育やメイカー教育、STEM(科学、技術、工学、数学)教育などと言われる新しい教育のあり方が大きなムーブメントになっている。共通しているのは、「子供たちが自分で問題を探し、何かをつくり出すことで問題を解決する」というアプローチだ。

 それは既存の「皆が同じ正解にたどり着く」という教育と大きく異なるため、どこの国の政府機関も指導に苦しんでいる。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で学校での授業をオンライン学習に切り替えるといった事例が増えるなど、教育の形が変わりつつある一方で、現場は突然の変化に戸惑いもある。STEM教育に力を入れるタイでの事例は日本にとってもヒントになるかもしれない。

STEM教育の目的はイノベーターの養成

 STEM教育などの新しい教育の特徴は、前述の通り「子供たちが自分で物事を発見し、チームでつくり出す力を養う」ことだ。

 既存の教育では教科書に正解が記載されている知識を正確にコピーすることが求められる。それとは対照的に、STEM教育では中学生や高校生といった若いうちから「自分で考えてチームで何かをつくって答えを出す」ことが求められる。例えば「高齢者が増えているので、高齢者に役立つものを作る」という課題に複数の学校が挑戦してチームごとに解決策を話し合い、迷子になってしまう老人向けにGPSと通信機能を備えたベルトのプロトタイプを作る、といった具合だ。プロジェクトを中心に指導をしていくので、こうした教育はプロジェクトベース教育とも呼ばれる。

 既存の教育がいきなり無効になったわけではない。これまでの教育でも大学に進学し、教養課程を終えてゼミに所属すると、「自分で問題を設定し、文献を調べるなどして論文の形にまとめる」ということを求められる。

 その意味では、大学生やさらにその先の修士課程、博士課程のような、かつては社会の一部にしか求められなかったスキルに対する需要が高まっているという言い方もできるだろう。

 単に暗記することよりもその知識を利用して実際の社会の問題を解くことが、どの国においても求められている。現代社会は「1人の起業家と100万人の労働者」というような状態から、多くの起業家によるマスイノベーションの状態に移行しつつある。