「新型コロナ対策は総力戦 清潔になり始めた深圳」でも紹介したように、深圳ではコロナ禍で落ち込んだ経済を底上げするために、清掃などに対して大規模な公共投資が行われている。これで失業者が減っている側面は大きいだろう。また、検温や消毒などでも大量のスタッフを投入している。これも多くの雇用を生み出し、景気対策となっているだろう。(関連記事:まるで工場の工程管理、中国の徹底した新型コロナ対策

 一方で中国国内経済をどれだけ下支えしても、世界経済が大減速している中、海外向けの製造業はスローダウンせざるを得ない。広東省の製造力は回復しているが、輸出できないようだと作るものがなくなる。この傾向は短期では変わらないだろう。そのため中国では、ベンチャーへの投資を利用して時価総額を上げ、研究開発型のスタートアップとして長期的な視点で経営に取り組む企業が増えてきている。

銀行で用件を聞きに近づいてくるロボット

 現在の深圳、特に新型コロナウイルスの流行以降は、様々なロボットが街で見られるようになった。たとえば深圳に本社がある平安銀行の窓口で受付票をもらい、順番を待っていると、ロボットが近づいてきて用件を聞いてくれる。筆者の中国語レベルでは会話が難しかったが、中国語の音声解析のレベルは高いため、ロボットが行うチャットボット的なやり取りでも窓口応対を待つ客の要望に応えることはできそうだ。

平安銀行で窓口の順番待ちをしているとロボットがやってきてご用聞きをする
平安銀行で窓口の順番待ちをしているとロボットがやってきてご用聞きをする

 また、筆者が銀行を訪れた時間は3つある窓口のうち1つしか開いていなかったが、窓口対応できる人間をセンターに集約して、それぞれの支店とリモートでつなぐようにすればもっと効率化できる。すでにサインなどはタブレット端末を使うようになっているので、ロボットとリモートで対応することはできるだろう。支店が物理的に存在する必要性はまだあるだろうが、上記のような形でデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことは可能だ。

 安価な人件費を活用して国外で設計されたハードウエアを大量生産する「世界の工場」ビジネスは、中国の人件費が上がるにつれて難しくなっている。自国でイノベーションを生むために、中国では2015年から「大衆創業・万衆創新」のスローガンの下、それまでの国営企業・計画経済重視の方針に加えて、起業とベンチャーキャピタル(VC)に対する大胆な規制緩和を行った。この政策により、16年には世界のVC投資の7割が中国国内で行われるような大バブルをもたらした(日本貿易振興機構=JETROアジア経済研究所の丁可氏らによる「アジアの起業とイノベーション」を参照)。その後、若干クールダウンすることになったが、15年以降の中国はスタートアップ大国になった。

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