「技術中心企業」のブランドを築いているバイドゥ

 企業ごとにオープンソースプロジェクトをまとめると、ここでもアリババ集団が圧倒的で、バイドゥがそれに続いている。4番手以降のテンセント、京東集団(JD.com)、ファーウェイは足しても2位のバイドゥに及ばない。

 もちろんこれは技術力を表す1つの指標にすぎず、技術力そのものと早合点してはいけない。テンセントが公開している多くのオープンソース・ソフトウエアはクラウド分野で、得意とするゲーム分野はそこまでオープンソースとの親和性が高くない。ファーウェイのオープンソースへの貢献は有名だが、米中貿易戦争の影響でGitHubへのアクセスは敬遠されていて、中国内のリポジトリGiteeが多く使われている。また、ファーウェイ、テンセントが多く取り組んでいるIoTや組み込みの分野でもGiteeへのアップロードが多い。

 バイドゥは検索や人工知能、自動運転など、利益に直結しない事業が多く時価総額ではアリババやテンセントに負けている。それでも特許数やオープンソースソフトの数では確かな存在感を出していて、技術を中核に置いた企業としてしっかりとしたブランドを築いているのがうかがえる。

 これまで数多くのオープンソースソフトウエアが開発されているのがデータベースの分野だ。データベースはもともと、顧客管理など項目が多く複雑なデータを効率的に管理するために生み出された。個人であればエクセルなどの表計算ソフトで管理している名簿などのデータも、法人など多くの人々が共有して更新する場合はデータベースソフトが必要になる。歴史も長く、ビジネスに直結する分野なので、米オラクルなど、自社開発のソフトウエア製品を販売している大手企業も多い。

 ところがインターネットが登場し、特に2000年代中ごろのWeb2.0以降、ユーザーからの書き込みが多いサービスが増えるにつれて、「大量のデータを高速で書き込めて読み出す必要があるが、データの更新はそこまで頻繁ではない」というニーズが増えてきた。こちらは、名簿管理などと同じ「データベース」という名称でも、目的や優先順位が大きく違い、ほとんど別のソフトウエアと言っていい。インターネット以後の仕組みなので、多くのサーバーで分散型に動作すること、そしてそれが一台のデータベースと同じように扱えることも大前提だ。

 こうした「分散型でデータを管理する仕組み」については2006年にグーグルがBigTableという自社の分散型データベースに関する論文を公開した。ただ手法については論文で公開したものの、実装されたソフトウエアそのものは非公開である。そこで、米アパッチソフトウエア財団はBigTableの論文をオープンソースのソフトウエアで実現するプロジェクト、Hadoopを公開した。

 オンライン決済のように一つひとつのレコードが極めて大事なデータが得意なソフトウエア、画像共有サービスのように大きいデータの扱いが得意なソフトウエアというように、目的や実装の違うソフトウエアがたくさん登場していて、その多くがオープンソースの開発手法を採用している。

PayPayも採用しているオープンソースのTiDB

 たった1つのプロジェクトで企業別ランキングの2位に入っているPingCAPはビッグデータ時代以降にはやり始めた分散型のデータベースTiDBを開発している企業だ。TiDBは、ユーザーが多いオープンソースのデータベースMySQLと互換性がありつつ、分散型処理型に発展させたもので、決済系の企業などのユーザーが多い。

 TiDBは非常に活発な開発が行われている。オープンソース開発者の人数は、アリババ集団内のオープンソースプログラマーの10分の1以下だが、活動量の合計ではアリババ集団を超えている。つまり10倍以上の作業量をTiDBにつぎ込んでいるフルタイムの開発者が多いということだ。

 PingCAPはオープンソースソフトウエアを中核に置いたスタートアップ企業として資金調達を続け、2020年にはシリーズDとして2億7000万ドルを調達したと発表した。米スクエアや日本のPayPay、韓国のサムスン電子などもTiDBを採用している。

 開発者が多いフロントエンド分野でも、米フェイスブックが2013年から公開しているReact上のツールキットAntDesignなど、総じて比較的新しいソフトウエアに関心を持っているユーザーが多いのが中国の特徴だ。そもそもレガシーなシステムが少なく、開発者が今も増え続けている中国の姿が、オープンソースの世界にも映し出されている。

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