コンピューターがビジネスに導入されてから数十年になる。かつてはコンピューターごと、システムごとに固有のソフトウエアを専門家が開発し、高価だったコンピューターの記憶容量を工夫して節約しながら使うプログラムを書いていた。
その後、パッケージソフトが中心だった時代を経て、現在ではほとんどのソフトウエアがクラウド上で開発され、膨大なデータを分散して記録する時代になった。こうしたクラウド上で動くソフトウエアはオープンソース方式で開発されるものが多い。
日本ではみずほ銀行のように古いシステムを保ちつつ改変する案件が話題になるが、古いシステムからの移行案件がそもそも少ない中国の、しかも若いプログラマーが多いオープンソースの世界では、現在流行している新しいソフトウエアに注目が集まっている。
中国オープンソースアライアンスの開源社は、GitHubへの中国人アカウントのアクセスを分析してリポートを出している。2020年の総イベント数(プロジェクトへの書き込みやダウンロードなどを合計した数)は8億7400万と、2019年に比べて60%増加している。中国からの総プロジェクト数は5373万件、アクティブな開発者数は1446万人と、いずれも2019年比で20~30%の増加となった。
インターネットの普及が一気に進んだ中国では、どのようなビジネスでもネット上に自社のサービスを構築する必要がある。例えばアリババ集団も、フードデリバリーサービスのウーラマも、自動運転サービスを手掛ける百度(バイドゥ)もクラウド上に自社サービスを構築し、そのソフトウエアをオープンソース方式で公開して、社外のエンジニアを巻き込んで改善速度を上げようとしている。
中国で人気のプロジェクトを見ると、2位以下が僅差でゆっくりと数値が少なくなっていることから、米グーグルや米マイクロソフトが公開しているFlutterやVisual Studio Code、Azure-docsといったトップクラスのソフトウエアからマイナーなものまで関心が多岐に及んでいることがうかがえる。一方で、中国発のオープンソース・ソフトウエアになるとトップとボトムの差が開くことから、まだソフトウエアの層が薄いことが見て取れる。中国発ソフトウエアのトップであるAntDesignでも、全体のトップ10に入らない。
中国全体のトップは前回も紹介したUIツールキットのAntDesignである。6位にはAntDesign Pro、さらにシステム全体のマイクロサービスを管理するnacos、 アリババが買収したフードデリバリーサービスのウーラマが公開しているelemementと、トップ10にアリババが公開しているソフトが4つ入っている。スマホアプリやウェブサイトなど、フロントエンドと呼ばれる人間の目に直接触れるソフトウエアの利用数が圧倒的だ。この分野はエンジニアもプロジェクトも多く、ソフトウエアが小さめでアップデートが頻繁なため、世界のどこでも活動量は多い。
流行に乗りやすい中国らしさが見えるのが、機械学習・人工知能(AI)分野の盛り上がりだ。中国発のソフトで2位にランクインしているPaddleはバイドゥが公開している機械学習のプラットフォーム。バイドゥは機械学習・人工知能分野に強く、自動運転関連のオープンソースソフトウエアapollo(ソフトを公開しているAplloAutoはバイドゥグループの自動運転企業)もトップ50に入っている。機械学習・人工知能分野には人気のソフトウエアが多く、グーグルのTensorFlowは世界のソフトウエアランキングの5位に入っている。中国の騰訊控股(テンセント)や華為技術(ファーウェイ)などもオープンソースの人工知能プロジェクトを公開しており、同国テック大手のほとんどが自社でAI技術の発展に取り組んでいる。
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