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(写真:PIXTA)

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの創設者であるニコラス・ネグロポンテ氏の著書『ビーイング・デジタル』が出版されたのが1995年。webブラウザー「Netscape Navigator」を開発したマーク・アンドリーセン氏が「ソフトウエアが世界を飲み込む」と記したのは2011年のことだ。デジタルテクノロジーが世界中に行きわたるといわれてから既に長い時間が経過している。

 実際、現代の生活はデジタルテクノロジーに覆われている。例えば、飲食店を開くことを考える際に、「どのようにインターネット上で話題になるか」に配慮せず進めることはできないだろう。「ネットワーク効果」や「ロングテール」といった言葉は、インターネットが人々の振る舞いを変えたことを表した用語であり、今ではビジネスを考える上で外せないものになっている。

 一方で、コンピューターそのものの振る舞いを知ること、すなわちコンピューターサイエンスについては、広く普及したとはまだいえない。これだけデジタルテクノロジーが広がる中で、特に企業の経営層がコンピューターサイエンスの知識を持っていないことは、大きな問題ではないだろうか。

 今や、ほとんどのものがコンピューターで制御される時代になっている。写真を撮るデバイスを例に挙げると、フィルムカメラはコンピューターではないが、デジタルカメラはコンピューターそのものだ。音楽を聴くデバイスでは、カセットテープやレコードはコンピューターではないが、米アップルの「iPod」以降の、MP3やストリーミングで音楽を聴く機器はコンピューターそのものだ。有線のイヤホンはコンピューターでないが、Bluetoothイヤホンはコンピューターそのものだ。

 IoTの時代になり、あらゆるものがクラウドやAI(人工知能)とつながるようになったことで、多くの新しいビジネスが起こっている。米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーのようなギグエコノミーは、スマホによってクルマや宿泊施設がクラウドとつながったことでビジネスが成立している。中国のアリペイのようなスマホ決済も、お金がクラウドとつながったから生まれた。そうしたクラウドと物理的な世界をつなげるIoTデバイスは、すべてがコンピューターでできている。

早稲田大学ビジネススクールでの講義「深圳の産業集積とマスイノベーション」で筆者が使用している図。物理世界の情報をIoTによってクラウドに収集するようになり、ネットワークとつながったロボットが物理世界に影響を与えるようになってきた

 どのコンピューターも中心にCPU(中央演算装置)があり、メモリーと記録媒体があって、入出力機器やセンサーがあるという構造は変わらない。デジタルカメラも、MP3プレーヤーも、Bluetoothイヤホンも、CPUとメモリー、複数のセンサー、無線通信の仕組みを備えている。まったく別物に思えるデジタルカメラとノートPCだが、デジタルカメラは大きいカメラセンサーと小さい液晶画面、ノートPCは小さいカメラセンサーと大きい液晶画面と、構成している部品が違うだけで、どちらもコンピューターそのものだ。

 高性能なドローンや電気自動車といった複雑なものは、複数のコンピューターがネットワークを構築し、別のコンピューター(GPSやプロポ)とやりとりしている。OS(基本ソフト)やネットワーク、暗号化、デジタル/アナログ変換、ムーアの法則といった知識は、コンピューターでできているものに等しく適用できる。

最終製品の機能は違っても、すべてのコンピューターは似通った構造と同じ動作原理で動いている。