オープンソースソフトウエアの広がりと言語の壁

 Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏もLinuxカーネルのトーバルズ氏も英語でドキュメントを書き、世界中の開発者とコミュニケーションしている。中国発のオープンソースソフトウエアでもそれは変わらない。

 いっぽうでRubyは英語の他に日本語ドキュメントが充実しているし、AntDesignは中国語のドキュメントが充実している。学術特許でも地理的に近いほうが引用されやすいという研究データがある。技術の世界やサイバースペースでも、距離や文化圏の影響はゼロではない。フィンランドでは多くの人が英語を使うことができ、フィンランド人の開発者が少なすぎるため、フィンランド語のみのコミュニティが育つことはめったにないが、日本語のオープンソースソフトウエアでは独自のコミュニティーができていることが多い。日本で行われているオープンソースに関するカンファレンスでは発表のほとんどが日本語だ。

 独自の言語と多数の開発者が存在するという点で、中国も独自コミュニティーが育つ可能性を秘めている。中国オープンソースカンファレンスは欧米からのスピーカーや筆者のような国外組以外は、基本的に中国語でスピーチが行われる。前述のAntDesignのGitHubリポジトリでも、英語以外に中国語での問い合わせがあり、回答も中国語のものが見られる。

GitHubでは要望や不具合報告などを集約するIssueという機能がある。AntDesignのIssueでは中国語での要望・報告も多く寄せられている
GitHubでは要望や不具合報告などを集約するIssueという機能がある。AntDesignのIssueでは中国語での要望・報告も多く寄せられている
[画像のクリックで拡大表示]

 中国語の開発コミュニティーが英語のコミュニティーよりも大きくなることはないだろうが、ハードウエアや組み込みなど、そもそも中国発の技術が多いいくつかの分野では、中国語がデファクト・スタンダードになるものもいくつか出てくるだろう。

 このようにオープンソースの世界には、グローバルでつながっているダイナミズムと文化などの違いによる個性の両方の魅力がある。

 先週の記事でお伝えした中国オープンソース年度報告の日本語版は無事に開源社から公式リリースされた。今後もいくつか注目すべき動きをお伝えしていきたい。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「「世界の工場」の明日」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。