中国最大のオープンソースアライアンスである開源社は、2021年1月に中国開源年度報告2020を発表した。同社の2019年のリポートについては、以前に紹介した。(関連記事:40代以上は4% 中国のオープンソース開発は高収入の若者が中心

 最新版の2020年度報告は、マイナーな存在だった中国の開発コミュニティーが急速に大きくなっていることを感じさせるものになっている。2019年の時点ではダウンロードして利用することが中心で、無料だからオープンソースを使うという意見が多かった未熟な中国のオープンソースコミュニティーは、わずか1年で大きく姿を変えつつある。

 筆者は2020年版の開源社のリポートについても翻訳して紹介している。リポートはアンケートのパートとGitHub上のデータを分析したパートの2つに分かれているが、まずアンケート編での見どころを紹介する。

オープンソース採用の理由は「ライセンス代の節約」から「透明性」に 

 大企業によるオープンソースの戦略的な活用はこの1年で急に目立つようになったが、まだ中国の「オープンソース開発」は、意識の高いエンジニアの自発的な貢献によるところが大きい。

 2019年の調査ではオープンソース採用の理由として「ライセンス代の節約」が圧倒的に多かった。これが2020年版では「オープンソースでソースコードが透明になり、知識がシェアされているから」が最多になり、次いで「オープンソースの理念や精神にひかれて」「オープンソース開発の方法がよい」「コミュニティーにひかれている」など、単なる無料ソフトではなく、オープンソースの開発手法ならではの特性が採用理由の上位を占めるようになった。

「オープンソースのソフトウエアを使う要因」のアンケート結果
「オープンソースのソフトウエアを使う要因」のアンケート結果

 米国や日本でオープンソースの開発手法が採用される際には、まさにこの「ソースが開示されているので信用できる」点が強調される。

 後述するように中国のオープンソースコミュニティーはまだまだ成熟というよりも新規参入者による拡大が続いている状態だが、そうした若い新規開発者が目的を理解して積極的に参加してくるのは、ソフトウエア開発の世界にとって良いことだ。

開発者はさらに若返り

 前回の調査では20代が60%、30代とあわせると90%になる若いプログラマーたちの貢献に目を見張ったが、今回の調査ではさらに平均年齢が下がっているようだ。20代の比率は変わらないが、30代の比率は下がって10代の比率が上がった。

 オープンソース開発の経験でも未経験が36%と圧倒的に多く、若い開発者が大勢流入してくることで、コミュニティー全体は成熟しつつも、若返っている様子がうかがえる。

参加者の年齢分布と学歴。学生が大量に参加してきたため、若返っている様子がうかがえる
参加者の年齢分布と学歴。学生が大量に参加してきたため、若返っている様子がうかがえる
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 開発者の職業では、引き続きインターネット関連/ソフトウエア関連の開発者が多い。また、前年よりも学校教育関係者の割合が増加し、テクノロジー教育におけるオープンソース活用が広まっていることを感じさせる。

 以前の調査ではビジネスパーソンもオープンソース開発に数多く参加していたが、2020年は母数が圧倒的に増えたために、学生とエンジニアの割合が突出している。

参加者の職業分布。「学生」と「開発者」が圧倒的に多く、その後は「マネジャー」「その他」「CEO/CTO」と続く
参加者の職業分布。「学生」と「開発者」が圧倒的に多く、その後は「マネジャー」「その他」「CEO/CTO」と続く

 米マイクロソフトのVSCodeや米グーグルのTensorFlowがオープンソースであるように、フルタイムで仕事としてオープンソース開発を行うエンジニアは存在する。オープンソースによる開発は「多くの開発者を巻き込んでソフトウエアの品質を上げる」手法の1つで、他の開発手法同様、企業にとって有力な選択肢になり得る。

 今回のアンケートからは、オープンソースソフトウエアの開発で収入を得ている人が増加していることが分かる。新規の開発者が多いので割合としては下がっているが、人数は増えている。その増えた人数は「週に20時間以上オープンソース開発をしている」という人数と符合するので、プロの開発者が増加していることがうかがえる。

「毎週オープンソース開発にどれぐらいの時間を投入しているか」のアンケート結果
「毎週オープンソース開発にどれぐらいの時間を投入しているか」のアンケート結果

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