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 「ハードウエアのスタートアップ」と聞くと、消費者向けに小ロットの製品を売っているイメージがあるかもしれない。だが、スタートアップがコンシューマーエレクトロニクスを手がけることは、かなりハードルが高い。

 家電製品は通常、利幅が薄いので、大量販売が必要になる。他にはないユニークな魅力があるハードウエアを大量生産するには、ファブレスよりも自社工場を持つほうが有利だ。大量に販売しようとすれば、量販店に売り場を確保するなど販売網が必要になる。いずれもスタートアップが実現するのは簡単ではない。

 スタートアップの成長を支援するハードウエアスタートアップアクセラレーターとして世界的に有名な米HAXは毎年、「Hardware Trends」というリポートを発行している。リポートにはHAX自身の活動も紹介されており、近年のリポートを見ると、設立当初に比べてコンシューマーエレクトロニクス分野に対する投資の割合が減っていることが分かる。

HAXが投資したスタートアップ数。グラフの赤い部分がコンシューマーエレクトロニクス、オレンジがヘルスケア、紫がエンタープライズ、青がインダストリー(出所:HAX「Hardware Startup Trend 2019」)

 2012年に出版され、メイカームーブメントのきっかけとなったクリス・アンダーソンの『MAKERS』などでは、クラウドファンディングが量産の登竜門とされている。しかし、米クラウドファンディングサイトの「Kickstarter」などで一度大成功したとしても、市場が一度できあがると、そこは大企業を含めたあらゆる企業がしのぎを削る場所になる。

 急速に会社を拡大し、量産のための工場や販売の人員を含めて、大企業と遜色ない体制を数年でそろえられるスタートアップは少ない。思い付くのは、Makeblock(設立から6年で従業員数は400~500人程度)やM5Stack(設立2年で50人程度)といった中国・深センの企業だ。彼らは自社工場を立ち上げ、それぞれの領域では、スケールメリットを出せる存在になっている。自社で製造できることが矢継ぎ早の新製品投入にもつながっている。

 さらに大きいところでは、ドローンの中国DJIや電気自動車(EV)の米テスラなどが挙げられるだろう。自分たちで製造をコントロールすることは、ハードウエアで勝負する企業としては必要不可欠なアプローチだ。しかし、設立から短期間で自社工場を立ち上げるには、工場で働く人が豊富にいる中国のような場所でないと難しい。テスラは例外とも言えるが、同社は創業時から十分な資金があった。

 中国には人口という利点だけでなく、大企業がスタートアップに資本参加して短期間で成長させるエコシステムもあるため、コンシューマーエレクトロニクスを手がけるユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)が続々と生まれている。だが、ハードウエアスタートアップがコンシューマーエレクトロニクスで生き残り、成長するのはやはり簡単ではない。