10月31日、米下院はトランプ大統領に対する弾劾調査の手続きを定めた決議案を232対196で可決した。過半数を握る民主党がその強みを生かした格好だが、民主党からは造反者が2人出た(共和党はゼロ)。この決議を受けて、11月5日には、下院情報特別委員会が駐EU(欧州連合)大使の非公開証言記録を公開した。

全ての報道を見たわけではないが、メガバンクの知人に勧められた一部動画ニュースサービスがニクソン大統領の弾劾時のエピソードを正しく報じていたものの、それを除くと日本のメディアは米メディアと同様に嫌トランプとの印象を受けた。そこで、今回は、米国における弾劾裁判の持つ重みと、表面化している事実から分かる問題点を敷衍(ふえん)したい。
身内の民主党から造反者も
もともと、ナンシー・ペロシ下院議長はトランプ大統領に対する弾劾手続きの推進に反対で、大統領との決着は来年の大統領選挙でつけるという考え方だった。弾劾手続きを進めるには上院で3分の2の賛成が必要だが、現在は共和党が上院の過半数を占めているためだ。ところが、バイデン前副大統領のウクライナ疑惑を調査しようとしたトランプ大統領の政治介入が浮上、大統領の弾劾裁判に舵(かじ)を切った。
彼女としては、ウォーターゲート事件で、ニクソン元大統領の弾劾調査を巡る決議案が410対4の賛成大多数で可決された時の再現をある程度、期待したのかもしれない。仮に、10人でも共和党から離反者が出れば、今ごろワシントンは混乱に陥っていただろう。
もっとも、ペロシ下院議長の思惑は外れた。わずか2人だが、身内の民主党に造反者が出た事実が示すように、民主党による弾劾調査は、今のところ政治ショー的な位置づけの域を出ていない。重要なことは、米国の(特に今回投票した下院の)政治家が、10月末の投票時に何を真実として捉えていたかということだ。
大統領の弾劾裁判は最終手段
大統領を弾劾裁判で裁くというのは、米国議会と米国民にとってLast Resort(最終手段)である。単純に下院の多数を占める、上院の3分の2を占める、という数の論理だけで行動すべきではない。つまり、弾劾裁判で裁く以上、大統領が罪を犯したという確実な事実と、その犯罪が米国憲法2条4節にある「重大な犯罪(刑法にある殺人などの重罪ではなくとも公の道徳に反する破廉恥な犯罪)」である必要がある。
今回のように、下院が重大な犯罪の存在を明確にできないまま行動したことは、大統領の地位や米国政府の安定性が多数政党により簡単に脅かされることを意味しており、将来に禍根を残した。
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