「犬笛戦術」という言葉がある。犬笛とは犬の訓練に使う笛で、人間には聞き取りづらいが犬には聞こえる高周波の音が出る。犬笛戦術は特定の人だけが分かるメッセージを出して、人々をある方向に誘導することを指す。

 今回の大統領選挙において、民主党とバイデン陣営は犬笛戦術をフルに使っているようだ。筆者は民主党関係者との関係は希薄だが、彼らの現状までの選挙活動への満足度を聞くと、犬笛戦術を使っているという印象を受ける。

 筆者は犬笛戦術の有効性分析についての論文を読んだことはないが、犬笛に似た手法として、フリーメーソンではメンバーにしか分からない形でのメッセージの交換などがなされていることは知っている。こう書くと謎めいたものを感じるかもしれないが、別の表現をするとサブリミナルメッセージである。

 では、具体的に今回の大統領選挙における犬笛戦術とはどのようなものであろうか。可能性があるものをピックアップしていく。ちなみに著名ジャーナリストがトランプ大統領の言動を犬笛戦術と評しているが、これは本稿執筆後に知った話で、また筆者はトランプ大統領のこれまでの言動は犬笛戦術だとは考えていない。

期日前投票を促すバイデン陣営のメッセージ

(写真:AFP/アフロ)
(写真:AFP/アフロ)

 郵便投票を含む期日前投票は10月2日時点で600万票、10月14日の段階で2000万票といわれていたが、10月19日には3500万票と急増した。特に郵便投票が増えているようだ。

 期日前投票急増の背景に犬笛戦術があると思われる。10月2日時点の600万票の期日前投票のうち、郵便投票は550万票だった。しかし、ハリス副大統領候補は10月7日、郵便投票数としてあえて問題のあったものを除いた400万という数字を出した。

 彼女の話のポイントは、郵便投票が有意な数に達しているのなら、最高裁判事の指名・承認プロセスは選挙後にすべきだというものだった。しかし、400万通は有意というには少ない。つまり、有権者に檄を飛ばしたことになる。その後、彼女とバイデン候補は演説で常にこの話をしている。

 そして、バイデン候補は10月15日のタウンホールミーティングで、再び郵便投票を促す犬笛戦術を取ったように見えた。トランプ大統領が別のタウンホールミーティングで1時間のうちの20分も女性司会者に攻められていた、ちょうどそのときである。

 バイデン候補は、投票日にソーシャルディスタンスを保てないところに行くと新型コロナウイルスに感染すると語った。翌日、ほとんどのメディアはトランプ大統領と女性司会者の話を取り上げた。しかし、大統領選挙としてより重要だったのは、バイデン候補の静かな説明とそれを促した男性司会者の巧みなミーティング運営だった。この司会者はオバマ大統領のスピーチライターだったので、あうんの呼吸だったのも当然といえば当然である。

 ちなみに、トランプ側の女性司会者は、本人がリベラルであることに加え、夫が民主党で働いていたという。簡単に言えば、この日のタウンホールミーティングは、どちらも民主党の仕組んだ通りに進んだということだ。

 バイデン候補のタウンホールミーティングの視聴者は1680万人と、トランプ候補側の1780万人を下回った。しかし、10月19日時点の期日前投票数を考慮すると、バイデン側の視聴者の多くが期限前投票を行ったのではないかと考えることができる。民主党の支持者は、ハリス副大統領候補の「400万」に続くバイデン候補のコメントで、自分たちが何を求められているかが、明確に分かったのだと思う。

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