大統領の支持層と話をしていると、トランプ大統領がフェイク・ニュースと批判するメディアの報道が、事実として的確ではないことも分かる。

 例えば、米経済はわずかな富裕層と大半の貧困層に分かれており、その断絶はトランプ政権による減税などで一段と拡大したという報道は常態化している。トランプ政権こそが米国の分断を拡大し、社会問題を助長している根源だとの指摘だ。もっとも、トランプ政権に移行した後に、富裕層の収入だけでなく白人労働者層の収入も拡大している。格差の拡大というより、米経済全体の成長によって落ちこぼれが減少したとトランプ支持者は言う。

次期大統領選への布石もアメリカ・ファースト

 現時点でトランプ大統領を取り巻く話題は4つある。①世界に展開する米軍の扱い、②米中貿易摩擦への対応、③ウクライナ問題に絡んだ弾劾問題の処理、④FRB(米連邦準備理事会)に対する利下げ要求──の4つである。移民問題も重要だが、既に一般化して民主党のディベートでも取り上げられているのでここでは扱わない。

 1つずつ見ていこう。

 ①は冒頭のシリアからの撤退にも表れている通り、トランプ政権はこれまで以上に、米兵の命とお金の両方で米軍のコストを引き下げようとし続ける。建国を目指して米軍とともに戦ったクルド人には申し訳ないが、こういった手のひら返しは歴史的に覇権国が繰り返してきたことである。

 例えば、第1次世界大戦で英国に加担してだまされたアラブ人もそうだ(アラビアのロレンスで有名な話)。米国も、当時の英国と同様に自国優先主義を徹底しているだけだ。よって、今後もトランプ政権の態度は変わらないだろう。

 次の②は、中国に限らず、自国の優位性を脅かす国には黙っていないという米国の性格に起因する。中国経済の発展は間違いなく米国に利益を与えるが、技術などでの優位性がなければ将来の逆転に不安を持つ。半導体摩擦のときの日本もそうだったようにトランプ大統領だけの話ではない。

 トランプ政権が進めている貿易赤字の改善という観点で見ると、対中輸出を望む米国の農家と豚コレラに苦しむ中で安価な米国産飼料の輸入を求める中国の畜産農家が10月11日の「第1段階」の通商合意をもたらしたように、「ディール」には近づきつつあると言えるのかもしれない。ただ、別の観点からのやりとりは今後も続くだろう。

FRB攻撃をやめた理由は今後の円高

 ③については、ウクライナの大統領に対して、トランプ大統領が大統領特権を使ってバイデン前副大統領が息子とともに犯したかもしれない問題を調べるよう促したのはモラル上の大問題である。ただ、ジュリアーニ元ニューヨーク市長などが指摘しているように、犯罪と言い切ることは容易ではない。

 トランプ陣営にすれば、ウクライナへの調査要請が大統領にふさわしい行為かどうかという前に、前副大統領による、米国を利用した私欲の追求という事実を調べることの方が米国民にとっては重要と考えているようだ。

 分かりづらいのは④である。8月までの度重なるパウエルFRB議長への圧力が嘘のように、トランプ大統領は矛を収めつつあるからだ。

 一つには、実際のデータが示しているように、FRBが金利的にも量的にも緩和に舵(かじ)を切ったことがある。ただ、日本の消費税引き上げによる恩恵が視野に入ったこともある。過去のデータによれば、消費税を引き上げてしばらくすると消費が落ち、GDPデフレーターが下がり始める。つまり、日本の実質金利は「名目金利ー(マイナスのインフレ率とマイナスのデフレーター)」の差の結果として上昇を始めるのだ。

 一方、米国は名目金利が2%を切ってきたので、インフレ率の2%を引けば実質金利はマイナスとなる。結果、日米の金利差拡大によって円高(=ドル安)となり、トランプ大統領は米経済への刺激だけでなく、米国からの輸出拡大を促すことができる。

 ちなみに、トランプ大統領の貿易交渉は、基本は分かりやすい物量での改善である。NAFTA(北米自由貿易協定)も自動車生産の米国回帰を狙ったUSMCA(米・メキシコ・カナダ協定)に移行した。対中交渉も貿易額を重視している。日本がそうでないのは、日本が米国経済の保護という形で合意しているからだ。

 結局のところ、トランプ大統領のアメリカ・ファースト政策は、内外から感情的な批判を受けつつも、今のところ全ては来年の大統領選挙に向けての支援材料になっている。

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。