
11月3日に投票が行われる米大統領選の1回目の候補者討論会が、米国東部時間9月29日午後9時、オハイオ州クリーブランドのケース・ウェスタン・リザーブ大学で開催される。司会者は、FOXニュースのクリス・ウォレス氏である。
3回行われる討論会の最大の見どころは、バイデン候補が政策などについて、どれだけ正直かつ明確に話すかである。中道と超リベラルの狭間でどのような政策案を持ち、それが国民に与えるプラス面とマイナス面をうまく説明し切れるのかが全てだ。
この1カ月、バイデン候補もハリス副大統領候補も最大で30分の演説をしただけだった。質問もリベラルメディアだけを相手に、事前提出のものに対して準備した回答をするだけだった。
討論会では、司会者やトランプ大統領が質問をしてくるはずだが、それにうまく反応できるかも注目点だ。今さらトランプ大統領の新型コロナ対応がまずかったということを聞きたい視聴者はいない。
大統領選挙の行方を決める討論会
討論会は現在、3回実施されるが、以前は2回だったこともある。3回の討論会は毎回、司会者が変わる。形式も、1対1の演説型やタウンホール型など異なる。そのためすべてを見ないと4年間を託す候補者を見極められないというつくりになっている。ここには、大統領選挙の公平性の維持とともに、メディアとしてのビジネスの発想もある。
なお、すでに郵便投票を始めた州があるが、普通なら、9月29日の第1回大統領候補討論会と10月7日の副大統領候補討論会を見るまでは投票を控えるだろう。ただ、民主党はバイデン氏の体調問題への不安もあって、討論会を見る前に投函(とうかん)させたい。一方、共和党は最後まで見せたい。
第1回目のトピックは司会者のウォレス氏が選んだものであり、事前に発表されている。具体的には「1.トランプとバイデン両氏の実績」「2.最高裁判事選任の問題」「3.新型コロナ問題」「4.経済」「5.人種問題と都市部での暴動」「6.選挙の健全性」の6つで15分ずつの配分となっている。ワシントン・ポストによれば、トランプ大統領は普段の話題ということで事前の準備をほとんどしていないという。一方、バイデン氏は膨大な想定問答を作ったということである。
ちなみに、ウォレス氏はNBCとABCを含めて45年の記者歴を持つベテランで、全米の尊敬を集めている政治記者だ。過去の大統領選でも候補者にインタビューをしてきており、1980年の民主党党大会でのテッド・ケネディ氏に立候補をあきらめさせた際の報道などは有名である。2003年からはFOXニュースに属しているが、決して保守寄りでない中立性を売りにしている。
トピック1:トランプ大統領とバイデン候補の実績
他の5つのトピックを考えると、ここでの実績とは、プライベートを含めた過去からの様々な実績を意味する。政治面で言えば、外交ということになるだろう。ただし、具体的に何が質問されるかは、ふたを開けてみないと分からない。逆に言えば、ウォレス氏は、全てを事前に準備させないために、このような質問を最初に持ってきたのだろう。
例えば、トランプ大統領の実績と言えば、特筆すべきは、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定、NAFTA=北米自由貿易協定に代わる貿易協定)の実現と、彼の娘婿が大統領アドバイザーとして実現させたイスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)およびオマーンとの歴史的な国交樹立の2つだろう。一方、バイデン候補は、実績というよりも、次男がオバマ政権のウクライナ政策に絡んで巨額の富を得た話が9月22日から再燃しているほか、ロシアゲートも旧オバマ政権の人間に召喚状が送られ始めている。
米国民の命という観点では、メキシコ湾岸のハリケーン災害と西海岸の山火事問題への対応は、メディアがあまり報じないポイントだ。有権者からすれば最も大切な話題の1つなので、意外と最初に出てくるかもしれない。気候変動問題もこれに入る。
また、バイデン候補がイラン問題について、6カ国協議への復活を訴え続けるかどうかも見どころだ。今のところ、イランの沈黙は続いており、トランプ外交は成功していると言える。
中国問題では、バイデン候補の次男が引き続き中国企業の顧問をしているほか、マイクロソフトなど中国で利益を上げている米国企業が民主党を支援している。一方で、国民は中国を仮想敵ではなく本物の敵だとみなし始めている。香港での民主主義維持の問題、ウイグルでの人権問題などもあり、これも2人が異なる立場からどう説明するか見ものだ。

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