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(写真:ロイター/アフロ)

 2020年5月のフロイド事件(ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が白人警官に殺された事件)に始まった複数の大都市での暴動は、8月のブレーク事件(ウィスコンシン州ケノーシャでジェイコブ・ブレーク氏が白人警官に撃たれた事件)を機に、平和なデモと暴動に分かれるという動きを見せた。黒人アスリートが試合のボイコットや競技場での黙とうなどを始めたことで、黒人の学者や民主党支援者、差別撤廃主義者なども暴力には反対だと声を上げ始めた。CNNなどのリベラルメディアも、バイデン氏とハリス氏による暴力反対のコメントを繰り返し報道していた。

 ところが、レーバーデーの週末(学校など米国が本格的に夏休み明けとなる前の週末)にかけて、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」を主張する人たちは沈静化とは正反対に暴動の拡散を試みている。これに合わせて、一部の民主党の議員らは「全米が燃えている」と叫び始めた。

 7月までのバイデン楽勝ムードを一変させた主因がBLMの暴動であることは間違いない。では、BLMの行動は何を狙っているのだろうか。

 現在起きている暴動は、6月3日公開の拙稿「警官による黒人殺害へのデモが示す米国の『もう1つの分断』」の頃のデモとは、全く様相が変わってしまった。

 米国における暴動の報道は、リベラルメディアと保守メディアで全く異なる。黒人に対して横暴な警察権力に立ち向かうヒーロー的なイメージを伝えるリベラルメディアに対し、保守メディアは一般市民に危害を加える暴徒の面を強く打ち出している。

 つまり視聴者が米国人であれ、外国人であれ、見ているテレビ局によって受けるイメージがまるで違う。そして、暴動を正当化する側の批判の矛先は、全てがトランプ大統領になる。ある意味でお決まりのパターンだ。

 また3カ月を超えた暴動の報道でカメラマンたちも慣れてきたのだと思うが、各地の暴動の首謀者らしき人物が映像に出てくるようになった。その多くは白人であった。

 例えば、9月6日にニューヨーク州ロチェスターで起こったBLMの暴動では、暴徒がレストランに侵入し、若い白人女性8人が囲むテーブルを台無しにした。そのほか多くの黒人が破壊行為をした。しかし、店外に置かれた椅子の上に立って指揮をしていたのは白人だ。同市では、6人が裸で座り込む(逮捕された黒人が、警官によりほとんど裸同然の姿にされたことへの抗議)、米国では典型的な抗議運動を展開したが、そのうちの5人も白人だった。

 一方、同じニューヨーク州バッファローでは、6月に75歳の白人男性が白人警官に倒されて重傷を負ったが、BLMの組織は彼の件には怒っていないようだ。一部の白人が「Stop Police Violence」のプラカードを持ってデモをしていただけである。差別らしき行為という意味では、トランプ大統領の不法移民対策のあおりを受けて、ヒスパニックが被害に遭っているが、これについてもBLMは反応しない。貧困の部類に入るオーソドックスなユダヤ人と黒人とのもめ事も減ってはいない様子だ。表層的な黒人差別問題に隠された、黒人同様に差別されている人々は、BLMからは忘れ去られているらしい。

 BLMは日本語では「黒人の命も大切だ」と訳されている。だが実際は、「黒人の命『が』大切だ」なのだろうといった声は米国でも日本でも意外に多い。黒人の間でもこの話題は出ており、BLMによる道路への落書きが続くニュージャージー州アトランティックシティのスモール市長(黒人)も9月4日に、「我々が考えるべきはAll Lives Matterだ」と述べている。