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 8月23日の米国株式市場はダウ工業種30種平均が623ドルの下落と、同5日の767ドル安に次ぐ大幅下落となった。当日のトランプ大統領のツイートも、「(中国の)習近平国家主席とパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長のどっちが大きな敵か」「連邦準備制度(FED)はまた利下げをしなかった」「米企業は中国との取引の代替となる相手を探すべきだ」など、株価急落とその背景にある米中貿易摩擦の焦りを感じさせる内容だった。

トランプ大統領によるパウエルFRB理事長への攻撃は激しさを増している(写真:Jack Taylor / Getty Images)

 一方、トランプ大統領が批判したパウエル議長は毎年この時期に開催される国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で、「米景気はスローダウンしているものの引き続き良好」「貿易摩擦による影響はFRBにとって新たなチャレンジ」「追加利下げについては適宜対応する(必要と判断すれば果断に行動するという中央銀行が使う用語)」と、足元の米景気や先行きの見通しについて中銀らしく総括した。市場は9月以降の利下げをほぼ完全に織り込んでいるが、パウエル議長の発言は比較的落ち着いた内容だった。

 そのため、リベラル寄りのメディアは「パウエル議長は市場が織り込み済みの利下げに対して冷静さを求めた」「トランプ大統領は世界の中銀総裁が集まるジャクソンホール会議をFOMC(連邦公開市場委員会:米国の金融政策を決定する場)と誤解している」などと報じている。

「対中冷戦」と捉え始めたトランプ大統領

 もっとも、トランプ大統領が怒りのツイートを上げたのは中央銀行を理解していないためではない。トランプ大統領の怒りは景気後退リスクや株価急落に対するFEDの対応が遅いというだけでなく、米国が一丸となって中国と戦おうというときに、FRBが協力しないということに対する不満である。

 パウエル議長は、今回の講演で、FEDが金融政策の独立性を回復した1951年3月以降の経済を「Great」と表現、Inflation、Moderation、Recessionの3つの時期に分けて説明した。一方のトランプ大統領といえば、第2次世界大戦のときに、財務省の要請もあってFEDが低金利政策や米国債の購入増といった政策で政府の戦争遂行を支援したことを念頭に、今回も同様の協力体制を希望している。

 実際に株価が急落し始めたのは、市場がトランプ大統領のツイートとジャクソンホールでのパウエル議長の講演要旨のギャップを感じ取った直後。大手金融機関や投資ファンドの専門家からは「米国は非常事態に突入した」という声が漏れたが、23日に明らかになった米国の非常事態とは、中国との問題についてトランプ大統領が貿易摩擦だけでなく安全保障まで含めた冷戦だと考え始めたということだ。