正式に大統領候補に指名されたバイデン氏は副大統領候補となったハリス氏と共にデラウェア州ウィルミントンから党大会に参加した(写真:AP/アフロ)
正式に大統領候補に指名されたバイデン氏は副大統領候補となったハリス氏と共にデラウェア州ウィルミントンから党大会に参加した(写真:AP/アフロ)

 8月17~20日の4日間、民主党大会が開かれた。史上初めてのオンライン大会であった今回は、カンファレンスのバーチャル化の難しさとともに、バーチャルだからこそ垣間見えた、団結し切れていない民主党の実情が表面化した。

 民主党大会は「オンライン大会」と銘打ったものの、世界中の学校が春から実施してきた、オンラインの生中継と事前録画の放映を組み合わせた「バーチャル卒業式」と同じようなものであった。スピーチのために登壇した人たちはほとんど事前録画だった。筆者の印象では、事前録画が95%、生放送は5%といったところである。

 同時に、開催場所となったウィスコンシン州ミルウォーキーに大会期間中、滞在したのは民主党全国委員会(DNC)の委員長ら数人だけである。超リベラル(民主社会主義者、プログレッシブ)たちのデモを回避する目的があったともいわれているが、実際の会場はバイデン候補の住むデラウェア州ウィルミントンにあり、バイデン候補もハリス候補も、ここから演説を行った。また、ほぼ全てのスピーカーもミルウォーキー以外からの参加だった。

 なおDNCは、著名な女優(黒人を含む)を日替わりの司会者にし、バーチャル大会を生かして、親バイデンのスピーカーとバイデン氏が大統領となった際に閣僚として参加することが予想される人たちを総動員して盛り上げようとしたものの、大会自体の視聴者数は4年前より減った。

 視聴者数の減少がバーチャルを原因とするのかどうかは分からない。ただ、今回の新たな試みにより得られた事実は、8月24~27日のバーチャル共和党大会の準備に大きな影響を与えている。

 民主党大会のまとめを書く前に、8月24日から開催される共和党大会のポイントを記しておく。

  1. 会場となるノースカロライナ州シャーロットに何人のスピーカーが集まるか(民主党大会は真の会場はバイデン候補の自宅近くにあった)。
  2. 何人がオンライン生中継になるか(民主党はほとんどが録画出演だった)。
  3. 造反者が出るか(コルテス議員はサンダース氏を大統領候補にと言い放った)。
  4. 民主党を造反した人がスピーカーとして出てくるか。
  5. 党内の分裂を感じさせるものがあるか。反トランプの動きがあり、それが表面化するか(民主党大会は超リベラルと中道、オバマ家とクリントン家との確執の一端が見られた)。
  6. トランプ大統領が現状を正直に評価して2期目の具体的な政策を語るか(バイデン候補は黒人暴動などの現状には触れず、全希望者が加入できる医療保険の実施≒オバマケアの深堀、同盟国重視の外交、慎重な貿易交渉、軍事費の抑制、新型コロナウイルス対策の初日からの実施など、イメージが中心で具体性に欠けていた)。

大統領候補指名受諾演説が示したバイデンの本音

 本稿の本題である民主党大会の振り返りに戻ろう。

 大会最終日のフィナーレを飾るバイデン氏による大統領候補正式指名の受諾演説は、リベラルメディアから名演説の1つとたたえられた。しかし、筆者もすぐに気付いたが、このスピーチは内容の巧拙よりも、50年近い政治家としての経歴を持つ彼らしさがないところが特徴だった。問題の所在を明らかにして自分ならどうすると語るバイデン氏独特の強いパンチがなかったのだ。

 彼は2009年に副大統領となるまで、庶民派を代表する上院議員として米国民が直面する問題に特化した法律を作るのが売りだった。そう感じてきたのは筆者だけではないだろう。

 議会には自宅のあるウィルミントン駅から電車に1時間ほど乗って通い、その車内で庶民の声を拾い上げるのが、彼が誇る国民目線の政治家の原点であった。バイデン氏が「自分に投じられた1票や自分が作る法案は庶民の声だ」と語っていることは、民主党議員の中では有名な話である。

 彼の演説のポイントは「オバマ時代への復帰」、つまり「コロナ後」をにらんだ革新的な変化ではなく、トランプ大統領が批判しつつ壊してきたオバマ政策を再度行うということであった。しかも、もう1つの彼らしくない点を挙げるなら、将来のための具体的な政策を述べていないだけでなく、今の問題の原因をトランプ政権の政策ではなくトランプ大統領個人のせいにしたことだろう。トランプ批判は、他のほとんどの演説者に歩調を合わせたとも言えるが、バイデン候補の説明に独自性がなかったのは事実である。

 この背景を民主党のキャンペーン関係者に聞くと、FOXニュースが「良く書かれている」と表現した今回のスピーチは、超ベテランのスピーチライターが書いたものだという。民主社会主義者との関係で苦心するバイデン候補の民主党内の立場に注意したようだ。

 また、ポートランド、シカゴ、ニューヨークの3つの大都市を中心に続く暴動を刺激しないよう、経済や外交政策と合わせて「暗いシーズンを終わらせる」とひとくくりにした表現、一般論としての方向性を前面に押し出したということだった。

 これがもしバーチャル大会でなかったら、長年の経験による老獪(ろうかい)さを持つバイデン候補は、恐らく、聴衆の反応を見ながらアドリブで、いつもの具体性を持たせた演説にできたのではないだろうか。彼の庶民的な言い回しを使った演説は、こういったときに彼自身の魅力を倍増させる力がある。

 例えば、外交政策については、8月13日にトランプ政権がイスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)の国交樹立を発表してリベラルメディアからも称賛された後だっただけに、ケリー元国務長官の8月19日の演説で触れたイランとの核合意への復帰の方向性を多少修正して、トルコも含めた大ムスリム構想といった可能性に言及することができたかもしれない。

 なお、今回の「原稿棒読み」という印象の背景には、8月3日のニューヨーク・タイムズ、翌4日のフォーブスが相次いでバイデンのディベート力の低下を問題視し、ディベートを避けるべきだと主張していたことを意識した可能性は十分にあり得る。しかし、それを加味したとしても、バーチャル大会の負の面が出たと言えるのではないだろうか。

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