オバマ大統領は黒人初の米大統領として注目された。2008年の大統領選挙の際には、日本のNHKもこの点に注目して特集を放映したように、白人以外が米国の大統領になることは世界の耳目を集めた。彼のコスモポリタン的な高い理想も世界の支持を得ることに役立った。

 しかし、彼は現実には米国の黒人奴隷の子孫ではなく、ケニア人でイスラム教徒の父を持つ大統領で、彼のセカンド・ネームは「フセイン」である。2008年の選挙当時、共和党の大統領候補のマケイン上院議員が、彼が米国外で生まれていて選挙資格がないという疑問を投げかけたほどである(その背景には、ケニアにいるオバマ大統領の祖母がここで生まれたと言ったこともある)。

「人種の壁」を乗り越えようとする候補

 それから11年後の現在、民主党の24人の候補者のうち、5人が白人ではなく、その中には黒人奴隷の子孫がおり、ほかに同性愛者が1人、配偶者が黒人の候補者が1人、と候補者に多様性がある。

 しかも、討論会では、1日目に白人のオルーク前下院議員が歴史上初めてスペイン語で主張を述べたところ、カストロ元住宅都市開発長官、ブッカー上院議員が彼以上に流暢(りゅうちょう)なスペイン語で議論を展開、司会者もスペイン語を話すなど21世紀に入って50%以上の人口増加率を見せているヒスパニック勢力の重要性を感じさせた。このため、討論会終了後にはオルーク候補が白人であることがここではマイナスだったというような論調まで出た。

 また、ブッシュ(父)大統領やケリー元国務長官(2004年の民主党大統領候補)は太平洋戦争やベトナム戦争での活躍をアピールしたが、デブラシオ・ニューヨーク市長は父が沖縄戦で足を失い最後は自殺したことを明かすなど、米国の戦争の歴史は輝かしいものばかりではないことを指摘した。彼は他の民主党候補が中東等での戦争反対を訴える中で、その事実に基づいて自分も反対だとした。さらに、彼は反米のゲリラ戦に参加した経験があり、妻は黒人で、昔はレズビアンであり、後にバイセクシュアルになったことを公言している。

 なお、ハリス上院議員が、子供の時にバイデン前副大統領が白人と黒人を区別するバスに賛成したことを涙目で訴えるという場面まであった。

 つまり、これまでのような経歴とは違う候補者が表に出るようになったのだ。

 このような人種的な話は日本の政界ではほとんど耳にしない。来年の米国大統領選挙は、このような複雑な事情をのみ込んで、引き続き白人優位主義やアメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領と、バイデン前副大統領を除けば、トランプ大統領の対極に立つ民主党候補が戦う選挙戦になる。

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。