次に保守とリベラルの対立軸だが、サンダース上院議員は国民皆保険では堕胎も適用対象となると言い切った。また、全候補が不法移民の子供や米国に移住しようとする外国人とその子供に対して、「クリスチャニティ」という発想からの対応の必要性を主張した。LGBTなどマイノリティーに配慮した社会の建設も一様に語られている。

 こうした点について、オルーク前下院議員はワシントン初代大統領の思想にまで遡って正当性を主張している(実際、フィラデルフィアの独立記念館の近くには、ワシントンが奴隷に奉仕する日を作っていたという解説パネルもある)。大統領選挙は4年に1回の「保守vsリベラル」という戦いではなく、この対立を所与のものとした思想・社会生活(文化)で中間層を取り込み、各州の選挙人を獲得するという戦いである。

トランプ陣営が狙う民主党のイメージづくり

 こういう戦いも、二大政党制が存在しない日本ではあり得ないものだ。安倍晋三首相を右寄りとか保守と批判したところで、それに対抗するリベラル路線を具体的に示す政治家は野党にはいない。この結果、日本の野党は与党(自民党と公明党)との違いを明確に出すことができずにいる。これでは選挙の争点がないと、米国では国民の批判にさらされる。

 トランプ政権としては、民主党が左傾化を強めて大統領選挙に勝つための政策案が現実性を失っていくこと、すなわち、リベラル的な政策実現のために財政支出を肥大化させ、増税リスクを嫌う中間層の支持を失わせることが狙いだ。既に、トランプ大統領がツイッターで発信している移民対策などはそれを意識し始めている。実際、この討論会を批評するためにNBCテレビのスタジオに招かれた共和党の政策顧問はその可能性に触れていた。

 トランプ大統領のこれまでの支持率が30〜40%台前半とバイデン前副大統領より低いことについても、トランプ陣営からすれば、かつてのニクソン、カーター、ブッシュ(父)の時の20%台よりはましで、「民主党=極端なリベラル」というイメージ作りに成功していると考えているようだ。実際、オバマ時代を是とするバイデン前副大統領でも、リベラル色を薄めることはほぼ不可能な状況になっている。

 一方、バイデン候補を除くほかの候補は(バイデン候補との競争の意味もあって)オバマ時代に戻ることは基本的に反対で、スワルウェル下院議員が7歳の時に「若者にバトンを渡す」とバイデン候補(当時は上院議員)が言ったと持ち出すなど、政治の刷新を示す声も出た(バイデン氏からも明確には踏襲という表現はなかった)。

 なお、対トランプという意味もあって、多くの候補が国内政策優先と言いつつも、同盟国、特に欧州(NATOなど)は重要だと主張した。

民主党候補が期待する「時間軸効果」

 この間、ブティジェッジ・サウスベンド市長が地元(米中西部)での気候変動による深刻な被害を訴えた。また、ウォーレン上院議員などが主張するように、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や医療保険、製薬企業など大企業に偏在する利益を適正に分配するという発想は、米国の株価が下落して国内経済が停滞し始めれば、すぐに注目を浴びるだろう。

 トランプ大統領は、米連邦準備理事会(FRB)に利下げをさせてでも株価下落の回避に必死なので、ここから1年半の景気局面がどちらの陣営にプラスに働くのかは不確実だ。しかしながら、この時間軸効果に期待して、民主党候補者(誰も自国の景気が悪くなることを待つ戦略など口には出せない)が「リベラル色の強さ」で勝負に出ると決めているのは間違いない。

 またデブラシオ・ニューヨーク市長のように、現実にリベラルな政策を推進している政治家が地元の支援を受けて(市長選のような狭い地域での戦いではあるが)勝利を続けていることも、民主党としては注目している。彼は、アマゾンの第2本社がニューヨーク市へ来るのを、厳しい条件をつけて実現させなかったが、同市での人気は相変わらず落ちていない。

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