民主党候補が関心を寄せるMMT

 前回の大統領選挙予備選で、サンダース候補の経済ブレーンであるケルトン・ニューヨーク州立大学教授は、MMT(現代貨幣理論:自国通貨の発行権限を持つ政府は債務不履行に陥るリスクがないため、インフレにならない限り〈うち需要けん引型インフレは管理可能〉、財政赤字を無限に膨張させることができる)を、日本を参考にして米国も取り入れるべきだと語った。MMTは、今回も年初から注目されており、パウエルFRB議長やサマーズ元財務長官といった大御所がそれを否定している。彼らは日本だけが特殊なのだと述べているが、米国内での注目度は引き続き高い。

 実際、各候補が支持する、国民皆保険、全女性への保険適用、大学の無償化、地方経済の活性化(日本で言う地方創生)、農業改革など、どれをとってもお金のかかるものばかり。かつ、日本がこれまで導入してきた政策であり、全てが国家財政に依存する。

 加えて、日本で今でも続いており、中国では一段と予算を増やしている高速鉄道構想などのインフラ整備についても、テキサスやカリフォルニア、東北海岸線(ボストンーワシントン間)など、関連施設の建設まで含めれば、地方財政だけでは賄いきれない。次の大統領は、こういった問題を考えなければならない。

 今のところ、誰一人として日本のことを口に出す候補は(少なくとも現段階では)いないものの、第1回、第2回と討論会を重ね、焦点が絞られてくれば、日本を話題にして、比較を始める候補が出てくる可能性は否定できない。タイミング的にも、候補者が絞られてくるであろう第4回から第6回(10月から各月)になれば、日本の消費税増税をはさむため候補者の注目度も高まるはずだ。

 ただ、筆者に問い合わせてくる候補者などの話を総合すると、彼らは、今のところ、MMTが有効かどうかというアカデミックな議論などには興味はなく、むしろ、日本が国民に対して税負担を伴う巨額な財政支出をどうやって納得させ続けてきたか、足元の経済情勢に陰りが出てきた中で消費増税を確定するための世論形成はどうすればよいのか、という具体的な実務に注目している。

 大統領候補の政策は絵に描いた餅では済まず、当選直後からの実行性が必要だからであり、そのために日本の動きを学ぶことが重要なのだ。

暗中模索の予備選討論会

 恐らく、第1回の民主党大統領予備選討論会は暗中模索の中で行われることになるだろう。ただ、これで一気に株を上げる候補者が現れる可能性もあるため全く無視はできない。候補者に対する人気が政策立案者を集め、そのまま(米国民が支持するという意味で)まっとうな政策を引っ提げて、予備選を有利に戦うという展開が起こるかもしれない。トランプ大統領が米国になじませたポピュリズムとはそういうことだ。

 本稿を読んだ読者には、第1回の結果とここに書いたヒアリングベースの内容とを比較してほしい。もし大きく違っていれば、各候補者は政策案作りでかなり揺れているということだ。第1回の結果を受けた各候補者の次をにらんだ動きについては次の回で説明する。

第1回民主党大統領予備選討論会出席者
  • 6月26日(水):
  •  コーリー・ブッカー(上院議員)
  •  フリアン・カストロ(元住宅都市開発長官)
  •  ビル・デブラシオ(ニューヨーク市長)
  •  ジョン・デラニー(前下院議員)
  •  タルシ・ガバード(下院議員)
  •  ジェイン・インズリー(ワシントン州知事)
  •  エイミー・クロブチャー(上院議員)
  •  ベト・オルーク(前下院議員)
  •  ティム・ライアン(下院議員)
  •  エリザベス・ウォーレン(上院議員)

  • 6月27日(木):
  •  ジョー・バイデン(前副大統領)
  •  マイケル・ベネット(上院議員)
  •  ピート・ブティジェッジ(サウスベンド市長)
  •  カーステン・ギリブランド(上院議員)
  •  カマラ・ハリス(上院議員)
  •  バーニー・サンダース(上院議員)
  •  ジョン・ヒッケンルーパー(前コロラド州知事)
  •  エリック・スワルウェル(下院議員)
  •  マリアン・ウィリアムソン(作家)
  •  アンドリュー・ヤン(起業家)
酒井 吉廣(さかい・よしひろ)
中部大学経営情報学部教授
1985年日本銀行入行。金融市場、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミストを経て、12年より中国清華大学高級研究員。この間、00年より米国AEI研究員、02年よりCSIS非常勤研究員。17年より中部大学教授。日米中の企業の顧問なども務める。米国務省や財務省・FEDの政策、米中経済に詳しい。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。
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この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。