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トランプ外交は大統領選挙に役立つのか

 5月の日本訪問で、トランプ大統領は令和になって今上天皇の最初の国賓となった。しかし、これがどう大統領選挙にプラスかというのは分かりづらい。外交は内政が不芳な時に国民の目を外に向かせる手段というのが教科書的な考え方だが、国内経済が好調な今、トランプ大統領の戦略はこの枠組みの外にある。

 米国が世界に警察機能を提供するというのは、米国が世界に民主主義を普及させる、というのと同じ考え方の下にあり、これを神の使命だとしたウィルソン大統領が最初に提唱した。その後の大統領もこれを踏襲し、(欧州戦線に参加するための口実として日本を罠にかけたとされる)フランクリン・ルーズベルト大統領は十字軍のように世界に軍隊を派遣しソ連とも共闘することで世界の覇権を築いた。この発想がトランプ政権にもある。

 トランプ大統領の最大の弱点は、頻繁に批判される道徳観の低さにある。ロシア・ゲートも他の問題も全てはこの道徳観に行き着く。

 他方、大統領選挙での票読みでは、まず共和党の基盤である「宗教保守」と、過去には沈黙を続けた多くの「草の根保守」(白人の労働者層)の2つが重要となる。これらは、どちらも現在の外交戦略により、精神的にも、経済的にもプラスになることを期待でき、2016年の選挙では辛勝であった州での票集めにも助けとなる可能性がある。

 また、2016年の勝因を振り返ると、黒人による事件が相次いで白人優先主義が公然と受け入れられたという偶然もあった。敵味方の対立軸を明確にしたトランプ特有の選挙戦であったわけだが、今回は中国系やシーア派イスラム教徒など、外交上の敵との構図を国内にも持ち込むことが可能である。

 もちろん、これらが正統派のやり方かどうかとは別問題であるが、選挙とは泥臭いものであり、ヒラリー候補の敗因もその辺りのなりふり構わず行動できるかどうかの差であったと評価することも可能だ。外交戦略の結果は、間違いなく選挙に生かせると思っているに違いない。しかも、これはウィルソン大統領の主張通り、神への貢献であり、不道徳さを批判されるトランプ大統領の敬虔(けいけん)なクリスチャンというイメージ作りにも役立つ。

米国はイランとの戦争は望んでいない

 問題は、例えば、中東・アフリカでのテロ組織とイランとの関与を前提とすれば、米国にとってイランとの戦争はその広大な国土での戦いだけでなく、他地域での衝突も覚悟する必要があり、最終的な勝利までに時間がかかるという点だ。イランがテロ国家なのかイランの中のテロリストが敵なのかの確定が容易ではなく、大義名分を見いだしにくい中で、長期化リスクのあるイラン戦争に、単純な「テロ退治」や「核排除」と言った程度の理由では武力行使に突入することはできない。

 また、今からでは大統領選挙までにまだ1年半ある。米国はタリバン政権との20年もの長期にわたる戦いに勝利できず、現在は和平交渉を行っている。イラク戦争も泥沼化してISを作らせてしまったという後悔がある。しかも、両国では戦勝に伴う経済的な利益も(当初のもくろみとは異なって)手にすることがなかった。

 さらには、イラク戦争の大義名分だった大量破壊兵器を発見できなかったことなど、過去の失敗に鑑みれば、現段階で安易に戦争に突入することはリスクであり、メディアがまくし立てるほどトランプ政権は好戦的になっているわけではない、ということを理解すべきである。

酒井 吉廣(さかい・よしひろ)
中部大学経営情報学部教授
1985年日本銀行入行。金融市場、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミストを経て、12年より中国清華大学高級研究員。この間、00年より米国AEI研究員、02年よりCSIS非常勤研究員。17年より中部大学教授。日米中の企業の顧問なども務める。米国務省や財務省・FEDの政策、米中経済に詳しい。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。