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中東の警察力はイスラエル、第5艦隊、航空基地

 トランプ大統領の中東戦略は、今年2月の一般教書演説でも触れられたように「偉大な国家は出口のない戦争は行わない」との発想のもと、アフガニスタンやシリアからは撤退方針、イラクなどでもISの終焉(しゅうえん)を背景に縮小傾向にある。

 一方、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)など同盟国・友好国との経済関係を深め、武器の売却や投資の呼び込みなどで自国経済に資する動きを作っている。サウジアラビアとカタールの対立など、予想外のことも起きているものの、基本はこれらの国とピンポイントで付き合うとの発想だ。

 なお、中東の面積が小さい産油国は、日本と同じく、米国に軍事的な保護を受けている国であり、経済・安全保障の両面で米国と極めて密接な関係にある。

 また、トランプ大統領は、大統領選挙で重要な役割を果たすユダヤ系の票を考えて、過去の大統領が選挙では約束するものの実行に移さなかった「エルサレムをイスラエルの首都として認める」という決断も行った。イスラエルは、核保有国であるだけでなく、通常兵器を含めて強力な軍事力を有する。この国との同盟には、中東における第5艦隊の駐屯、シナイ半島のアラビア海からペルシャ湾岸などの航空基地とあわせて、十分な警察機能を発揮できるという軍事合理性がある。

 一方、前首都のテルアビブは、シリコンバレーに次ぐITの盛んな都市で、AI関連や国防総省、サイバー関係の企業も林立し、米企業やファンドも技術提携や資本提携をするなど米国の利益に資する経済合理性の高い都市である。

 ちなみに、トランプ大統領による首都移転の認定は、オスロ合意に反するなど政治問題として評価されているものの、安全保障の観点からすれば、ヨルダン川西岸との境界から地中海まで14キロしかなく、有事の際にはほぼ防衛不可能な場所にあるテルアビブよりも、地理的には防衛しやすいエルサレムに首都を移すというのはイスラエルの立場では当然である。実際、この主張は同国が歴代の米国の大統領候補に首都移転を求める際の重要な理由の一つであった。

 加えて、娘婿のクシュナー大統領上級顧問がユダヤ教徒であるというのも大きく影響している。しかし、大統領選挙という視点から見ると、実は米国内のキリスト教徒が毎年イスラエルという聖地を訪問しているという事実があり、彼らの支持を得ることを考えると、共和党の大事な基盤である「宗教保守」をここで味方につけたという見方もできる。

イランを敵国とするトランプ政権の真意

 さて、このようなトランプ政権が考える中東の政治・経済・軍事地図の中で、どうしてもはみ出してしまうのがイランである。

 オバマ大統領は、世界平和と非核化への高い理想と寛大な発想で、ハメネイ氏の心を開いたと言われている。しかし、イランはサウジと争うイエメンを支援しているほか、20世紀からの中東での紛争で常に影響力を行使してきたシーア派の拠点であるため、現政権が強硬派と異なるとしても、これとの関係を完全に絶たない限り、トランプ政権としては安心できない。

 特に、核兵器を保有した場合の拡散リスクは、現在の北朝鮮の脅威に鑑みても容認できるものではない。

 他方、イランは石油が豊富であるだけでなく、勤勉な国民性もあり、実は、米国としてはできるだけ早く安全保障の問題を解決して経済関係を深めたい国だ。従って、ギリギリまで追い詰めるという戦いの鉄則は貫くものの、最後の一線は越えたくないというのが本音であろう。

 こうした中で、6月13日に発生した未確認組織からのタンカー攻撃に、もしロウハニ政権が関与していたということになれば、被害者が平和を促した日本国の船でもあり、経済制裁と武力行使の大義名分ができる。しかし、アフガニスタンより広い領土と8000万人の高い教育を受けた国民を抱える同国と戦うのは容易ではない。むしろ、彼らの知性に働きかけて、平和的解決を図りたいのが本音だ。

 これが、トランプ政権の中東戦略である。