6月9日には、香港で逃亡犯条例を改正する法案に反対する100万人規模の、かつ英国からの返還以降で最大のデモが行われた。その動きは16日(この日も200万人規模の大デモが発生)まで続いており、法案採決を延期させる事態となっている。デモ参加者がヘルメットや催涙弾対応のゴーグル、マスクをつけていることなどを見れば、用意周到に準備された動きであることが分かる。中国にとっては針の一穴のようなもので放置できないが、世界の目があるため安易な行動も取れない。

ドル決済の迂回路を提供する欧州

 10日には、ドイツのマース外相がイランのロウハニ大統領と会談し、オバマ政権時の2015年に米英イランなど7カ国とEUの間で締結した包括的共同行動計画(イラン核合意)を堅持すると述べた。もっとも、注目は欧州がドルを中心とした決済システムを回避できるクロスボーダーの資金決済システム(INSTEX)の利用開始が近いことを明言したことに集まった。独英仏を中心とする欧州が、ドル通貨主権のインフラである国際資金決済システムの代替手段を提供すると発表したのだ。

 同じ10日には、ロシアの大手3紙が、当局の汚職追及をしていた記者が麻薬密売容疑で逮捕されたことを冤罪(えんざい)だと政府批判を行った。絶対的な権力を有するプーチン政権下では極めて異例の動きである。

 12日には、トランプ大統領が米国の欧州戦略の最重要国と位置づけるポーランドのドゥダ大統領と会談、天然ガスの売却と米軍を1000人増加する約束を交わした。これは、2019年2月に公表された独ロ間の第2ガスパイプライン(ノルドストリーム2)建設合意へのけん制であることは誰の目にも明らかだった。バルト海を通る海底パイプライン、ノルドストリーム2はEUのロシアへのエネルギー依存を高める効果を持つ。

 同じ12日には、安倍首相がイランを訪問し(14日まで)、最高指導者のハメネイ師およびロウハニ大統領に対して、核問題で米国との平和的問題解決を促した。イランはイラン核合意への米国の復帰を強く望んでいるが、一方で安倍首相の説得も受け入れた。安倍首相の示した日本の立ち位置には、軍事力を背景とした交渉が当然視されてきた国際社会にあって有効性に疑問を呈する向きも少なくない。だが、米国がその有効性に期待しているのも事実である。

 ところが、13日には日本のタンカーを含む2隻のタンカーが何者かに攻撃され、船員がイラン海軍と米海軍に救助されるという事態が発生した。米国は証拠を示して、イランの仕業として非難を強めた。英国は米国を支持したが、独仏は慎重な判断を求めるなど、米国の同盟国間に違いが発生している。

各地で勃発する歴史的変化の予兆

 14日には、フランスやイタリアなどによる南EU諸国サミットが開かれたが、そこでも中東、米中情勢を含めた話し合いがなされた。ただし、内政に苦しむギリシャなどを抱える南EU諸国は、外交に目を向けにくい実情も露呈した。

 こうした状況下、中ロは、同13日には上海協力機構で、14日にはアジア信頼醸成措置会議で、ともにイラン核合意の支持を確認した。これまで米国主導で行われてきた核不拡散の問題と中東でのエネルギー戦略に変化の兆しが出たのである。中ロは、その前の週に習近平主席がロシアを公式訪問するなど、急速に接近している。

 もう少し長い期間で振り返ると、5月25日にベネズエラで内戦直前の状態にあるマドゥロ大統領(中ロが支援)とグアイド国会議長(米国が支援)が近くオスロで会談すると発表したほか(2018年の物価上昇率を同国は年率170万%と発表したが、IMF〈国際通貨基金〉は今年1000万%になると予測)、5月31日に中国の教育工作会議において習近平主席が国民に将来のために現在の苦難を乗り越えて(米中問題を指すと思われた)建国以来の目的達成(小康社会<いくらかゆとりある生活をできる社会>の実現)に向けた覚悟を示す「新長征」演説を実施した。

 また、6月6日にはアフリカのモザンビークで死に体に近いと思われたISが武力行使を宣言するなど、とにかく、歴史的な変化を予兆させる動きが各地で起こっている。

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