
オバマ前大統領が、2013年9月に「米国は世界の警察ではない」と宣言してから6年近くがたった。この間、欧州ではロシアのウクライナへの介入、中東では過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭やシリア内戦の継続など、世界レベルで見れば平和とは程遠い状況が続いている。米国は中国に対して「関与(Engagement)戦略」を推進してきた。その中国が今になって米国の脅威になったのも、この影響と言えよう。世界では、警察機能の弱体化が犯罪の増加につながるという単純な図式、つまり社会現象の縮小版がグローバルレベルで起こったのである。
基本は軍事合理性と経済合理性の融合
その後に登場したトランプ大統領も、最初のうちはバノン元首席戦略・上級顧問の発想を採用、「アメリカ・ファースト」を掲げた外交戦略の見直しで米国の経済負担の縮小を目指した。この基本線は今も変わらないものの、その後、マティス前国防長官が主張したテロ一辺倒から大国相手の軍事戦略への転換を受け入れる一方、外交資源の再配分で有効性の高い軍事戦略に変換した。世界戦略の見直しである。
現在は、ペンス副大統領とポンペオ国務長官のほか、タカ派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)や、経済ナショナリズムのナバロ大統領補佐官(通商担当)の考えが混ざり合って、対中強硬姿勢だけでなく、「米国の世界戦略上重要なポイントを押さえる」という省資源で最大の効用を目指す考え方で、世界の警察官としての機能を再び果たそうとしている。
しかし、これを従来のグローバルな安全保障という発想で見ていたのではトランプ政権の外交戦略の本質を見落としかねない。軍事合理性と経済合理性の融合こそが同政権の戦略の基本であることを理解する必要がある。
脱米国依存を強く意識し始めた国際社会
トランプ政権の外交戦略と並行して、オバマ政権以来の動きが慣性の法則のように続いている国際社会は、中国がそうであるように、国際的役割を低下させる米国を前提に前進している。そこにトランプ政権が楔(くさび)を打とうとする動きもあり、大きな時代のうねりが始まっている。
こうした状況下、安倍首相がイランを訪問した先週(6月9日〜15日)は、米国の覇権の継続性を振り返る上で重要な転換点となり得る1週間となった。事実を並べるだけでも、大きなうねりが表面化したことが分かる。
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