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(写真:ロイター/アフロ)

 米ミネソタ州ミネアポリスで、46歳の男性が5月25日の午後8時ごろに白人警官によって殺害されたとされる事件をきっかけに起こったデモは、全米で毎日のように繰り返されて2週間が経過した。一方、徐々に過激さを増していた暴徒による店舗襲撃などの破壊活動は、被害者の葬儀が行われた6月4日を境に鳴りを潜めつつある。特に6月6日の土曜日には「平和なデモ」を意識した行動が全米で行われ、デモが新たな段階に入った感がある。しかし問題は、黒人らの気持ちと、人種差別をなくすべきだとする全米に広がった機運を、どの政治家が受け止めて法令や社会の改革に努力していくかである。

徐々に姿が見えてきたANTIFA

 前回の論考(6月3日公開「警官による黒人殺害へのデモが示す米国の『もう1つの分断』」)では、5月末までのデモなどの状況を書いた。その中で米司法当局がANTIFA(Anti Fascismの略で反ファシズムの意)、Black Lives Matter、中国支援者の捜査をしていることを取り上げた。

 このうち、Black Lives Matterは中心的な立場の人間が発言を始め、自分たちがデモを先導する立場になろうとしていることが分かった。しかし、彼らは破壊的な活動は否定している。また、中国支援者は中国の国旗や新聞を持っている程度で、中国との関係など特段の指摘するようなものではないことが明らかになっている。

 問題はANTIFAだ。これまで議会の公聴会でも提供情報が使用されてきた調査機関の1つにプロジェクトベリタスがある。その調査機関がANTIFAの活動を捉え始めた。また他にも様々な情報が集まりつつあるようだ。黒人差別撤廃を求めるデモは6月6日までに世界33都市に広がっているが、このうち2万人が集まったというパリのデモなどにも、どの程度かは分からないがANTIFAが関係しているらしい。

 ANTIFAは、白人至上主義団体であるKKKの白装束とは逆に黒装束が象徴になっている。単純に左翼というよりは、反社会・破壊団体のイメージがある。RICO法(脅迫などを使う堕落した組織に対する法、つまり反社会集団による破壊活動を取り締まる法)の対象となっている組織だが、今回、トランプ大統領がテロ組織に指定すると断言した。

 上記のように各種情報から暴動を扇動した犯人の特定に近づきつつあるからか、全米から過激な暴動は姿を消しつつある。その理由には、デトロイトのデモに参加した暴徒がデモ隊に発砲して参加者の1人を死亡させたほか、ロサンゼルスでは連邦保安業務に就いていた人物1人を射殺、もう1人に重症を負わせたこともあるようだ。

 また、テネシー州ナッシュビルでは教会や車、小さな店舗を破壊する過激な暴動が起きたが、これに対しては、デモ参加者自身からも批判が出たらしい。デモ参加者も、時間と共に冷静さを取り戻し、真に求めることを達成するためには暴動や略奪行為は逆効果と考えたのだろう。この手の話をメディアに伝える人も出てきた。

 そして、これらの事件にANTIFAが絡んでいた可能性が高いというのが、トランプ大統領によるテロ組織指定の理由だ。米国民は、いまだ事実の見極めをしている段階ながら、教会の破壊や暴徒による発砲事件などの背後にいる存在としてANTIFA説が濃厚となる中で、彼らへの見方を徐々に厳しくしている。

 米国民がANTIFAの存在を明確に意識したのは2019年7月である。クルーズ上院議員が不自然な暴力事件を取り上げて、その犯人としてANTIFAの存在を明らかにし、上院の公聴会でFBIのウレイ氏にRICO法に基づいて捜査をしているか質した。そのときの焦点は、ANTIFAのオレゴン州にあるローズシティ(ポートランドの呼び名)の一団を対象としていた。なお、この公聴会が世間の関心を集めたのは、グーグルが政治的な活動に関与していたかどうかを調べるものだったからだ。

 今回のデモ隊の暴徒化に絡んだANTIFAも、ローズシティの一団で、ビデオに映っているANTIFA関係者は黒装束に黒の覆面をしており、胸に「Rose City」と書かれた服を着ていた。今後の展開を見守る必要があるものの、どうやらデモを過激化していた犯人は特定されてきたといえるだろう。