まだ次の米国大統領選挙まで一年半あるが、民主党からはバイデン前副大統領を含めて21人が出馬を表明している。また、トランプ大統領の言動に対しても「選挙を意識した」とメディアで形容されることが増えてきた。

 トランプ大統領の政治は「アメリカ・ファースト」を基本とし、「過激」「混沌」の二語で表現されることが多いが、その根底には白人優先主義(White Supremacy)があると指摘されている。また直観的な言動が多いためか、「何も考えていない(分からない)から」、「(政治とは遠い世界の)不動産屋だから」といった批判もある。特に、彼が過激な政治行動で「米国を分断した」とする批判は根強い。

 しかし、大統領選挙時の公約が過激だと評された以上、それを実現するための過程も過激となるのはある意味当然である。しかもこれらの公約は、メキシコ国境での壁の建設とオバマケアの廃止を除けば、ほぼ実行された。残りの二つとて、司法と下院民主党の反対により頓挫しているが、大統領自身はその実現を諦めたわけではない。なお、企業減税などの政策は米国経済の持続的拡大に寄与している。

 大統領就任後の世論調査をみると、就任直後を除いて不支持率が上回り続けており、支持率と不支持率はほぼ横ばいで推移している。個人としては予備選の頃から道徳観の欠如などで批判を受け続けるトランプ大統領であるが、政治の評価としての支持率は就任時から落ちておらず、過去の大統領の最初は高くて徐々に下がるというトレンドとは異なっている。

 この連載では、このようなトランプ大統領が次の大統領選挙で勝てるのかとの視点で、これまでの政策やその背景などを振り返り評価していくが、ここではまず、その全体像を俯瞰(ふかん)していきたい。

(写真:Chip Somodevilla / Getty Images)
(写真:Chip Somodevilla / Getty Images)

米国政治の基本線は変わらず

 トランプ政権は現在、中国ほかの貿易相手国との貿易収支改善のための交渉を続けているが、その背景には、1980年代以降の経常赤字の拡大を止めないと、やがて米ドルの信認が揺らぎ米経済に悪影響を及ぼすとの懸念がある。これは、レーガン政権時の85年のプラザ合意以降、対日貿易赤字の縮小に注力したのと同じである。21世紀に入るとテロとの戦いなどで歳出が膨らんだため米国債の発行と財政赤字も拡大した。

 米国の経常赤字(2017年)をやや子細に見ると、8075億ドルの貿易赤字の一方、海外との利子・配当の受払差額を示す第一次所得収支は2217億ドルのプラスと黒字幅を拡大してきている。これは米国債発行増に伴う海外投資家への利払い額より、民間企業の海外からの配当受入額の方が多いことを示している。また知的財産権の受払差額や証券売買手数料収支、旅行収支からなるサービス収支も2552億ドルと黒字幅を拡大している。ちなみに、知的財産権使用料の受取額は1283億ドルと世界の4割弱を占め、中国(47億ドル)の26倍に達する。経常赤字はリーマン・ショック後の2009年以降はおおむね横ばいで推移しており、この間、米国の政府債務残高は2019年に入って22兆ドルを超えている。

 すなわち、グローバルに活躍する米企業の強い収益・成長力と高い海外投資リターンを担保として、米政府が海外から国債発行で資金調達し、そのお金で歳費や米国民の消費生活を支える輸入を増やしてきた構図が見えてくる。コカ・コーラやスターバックス、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)やマイクロソフトといった企業やファンドのグローバルでの活躍が、経常赤字と財政赤字をリンクさせて米国自体の活動を下支えしているのだ。

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