ジョージア州は「風と共に去りぬ」の舞台になったアトランタを州都とする米東海岸の南部に位置しており、同市には作者のマーガレット・ミッチェルの生家もある。同市はコンパクトな美しい都市で、大銀行や大企業のほか、アトランタ連銀もある。一方で、南部に特有の黒人問題があることは、今回のケースでも見逃せない。

 全米調査を人種別に見ると、感染に対する不安はヒスパニックや黒人の方が白人より高いという傾向がある。実際、ほとんどの州でヒスパニックや黒人の感染者数や死者数は白人よりも多い。ヒスパニックと黒人への調査結果は、低所得者の回答結果と一致している。また、郵便番号別でみたマイノリティーの多く住む地区の感染者数が多い事とも符合しており、人種間の所得格差の存在を浮き彫りにしたと言えるだろう。

 また、世代別にみると、若い世代は感染症への不安が高齢者よりも低く、むしろ今後の経済への影響に対する関心が高齢者よりもかなり高い。トランプ政権が、矢継ぎ早に巨額の経済対策を打ち続けている背景には、こうした米国人の不安がある。また、ジョージア州などのStay at Home解除の背景はこうしたデータからも見て取れる。

 ただ、米国全体の新型コロナの感染状況を正確に把握することは容易ではない。人口が多く、人口密度も高い地域を抱えるニューヨーク州と、人口密度の低いネバダ州やアラスカ州では感染の状況が異なるからだ。

 ニューヨーク州の場合、クオモ知事の指示に基づいて検査件数がこれまでの倍に増えている。一方で、陽性患者の数は4月14日にピークを記録し、現在は4月上旬の数字も下回っている。入院患者数なども低下傾向を続けており、感染拡大が一段落したとみられる状況に入っているのは事実だろう。クオモ知事も、この傾向があと2週間続けば、経済活動の一部再開もあり得ると話している。

疲れが見えるトランプ政権

 Stay at Homeを解除したジョージア州を見ると、累計の陽性患者数は2万3216人と全米で12位。このうち入院患者数は4353人、死者が907人となっている。ただし、陽性患者数は4月14日、死者数は4月3日と16日に、それぞれピークを付けた後、下落傾向を続けている。4月25日の陽性患者数が21人、死者数が2人なので、足元のデータだけを見れば、ケンプ知事の判断も理解できる。

 ジョージア州の判断を受けて、テネシー州なども経済活動の再開に向けて動き出すとみられる。一方でトランプ政権にとっては、ここで拙速な対応をして感染再拡大のリスクを負うよりも、できるだけStay at Homeを引き延ばして、V字型回復を目指すという判断もあり得る。

 トランプ大統領が信頼を寄せるファウチNIAID所長も、慎重な判断の重要性と共に、冬場の流行再燃リスクを言い始めており、トランプ大統領としては、冷静に見極めた判断としたいところだ。過去の感染症のパンデミックの例をみても、気を許すと感染が再び拡大するリスクは決して低くない。これは、経済活動再開について発言を続けてきたトランプ大統領が、ここにきて慎重な表現に戻っていることからもうかがえる。

 トランプ大統領の支持率は、3月初めから支持率が不支持率を上回ってきたが、ここへきて支持率が45%と不支持率の49%を下回った。米国民の自粛疲れの矛先が自分に向かってきているという事をトランプ大統領も感じているかもしれない。

 国民以上に政権側が疲れているのは間違いない。ファウチNIAID所長は会見に参加しない日が出てきているほか、米HIV/AIDSグローバル・コーディネーターのデボラ氏は会見場の横に置かれた椅子に座りながら質問に答えるケースもある。

 こうした状況の下、そろそろトランプ大統領が毎日出席するスタイルのブリーフィングを終わらせ、新型コロナ対策の責任者であるペンス副大統領に任せる時期ではないかとの声が、政権内部で出ている。トランプ大統領は、今の自分を戦時大統領だと語ったが、もしそうであれば戦勝までは戦い続ける必要があり、そのためには体力を温存しなければならない。

 約200日後に迫った大統領選への流れを考えても、1992年に湾岸戦争に勝利したものの日本での晩さん会で倒れたブッシュ父大統領、2008年のリーマン・ショック時に体調不良を訴えたマケイン上院議員と、有権者に体調面で弱さを見せた候補が勝った例はない。5月に向けてトランプ政権はどのような手を打つのだろうか。

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。