米国でジョージア州を筆頭に複数の州が経済活動再開に動いている。ニューヨーク州も将来の可能性を示唆し始めた。

 全世界の感染者数約290万人のうち94万人と最多を占める米国は、今後も検査を拡大していく方針にある。ニューヨーク州の1日当たり検査目標数は、4月23日から従来の2倍の4万人に引き上げられた。「Stay at Home」の解除を前に、徹底的に感染者を見つけて治療するとの考え方である。

 一方で、感染関連データにピークアウト感が出てきたことで、中長期的に重要な問題は、失業者申請者数が4週間で2200万人を超えたことへの対応に移ってきた。1週間の申請者数でみても、リーマン・ショック時の記録をはるかに上回っており、現金支給での対応の限界を超えたさらなる一手が必要となっているのだ。

 米国の雇用は、国内総生産(GDP)の7割を占める消費に直結し、また株価に連動しているため、雇用の維持を政策目標の1つとするFRB(米連邦準備理事会)も、選挙を控える米政権も米議会も、失業者急増への対応を最優先で考えている。今は異次元の財政出動で株価も多少戻りかけてはいるものの、新たな展開がない限り、米国の疲弊は強まるばかりである。

 そんな中、ジョージア州のケンプ知事は、4月24日にStay at Homeを解除し、完全ではないものの経済活動を再開した。27日には活動再開を認める業種を拡大する方針を打ち出している。

米ジョージア州では4月24日に美容院などの営業が認められ、経済活動が再開した(ロイター/アフロ)
米ジョージア州では4月24日に美容院などの営業が認められ、経済活動が再開した(ロイター/アフロ)

 同州は、ソーシャルディスタンスについては6月15日まで維持するとしており、必ずしも新型コロナのリスクが無くなったという判断をしているわけではない。実際、ケンプ知事は今回の判断について、州内の市町村の首長や他の関係者と話し合ってきたと説明。アトランタやサバンナなどの都市部の市長を中心に反対が出たという。特にアトランタの市長は、「州都の市長として、また母親として、Stay at Home解除に反対する」と最後まで粘った。

 しかし、それでもケンプ知事は、自粛により瀕死(ひんし)の状態にある経済を復興に向かわせることを優先するとの方針を貫いた。

 ここで、大統領選挙への登録を済ませた人に対する4月上旬のアンケート調査を見てみよう(なお、後述するものも含む本稿でのデータは様々なアンケート調査を参照している)。

 米国経済をとても不安に思っていると答えた人の割合が68%、どちらかと言えば不安の割合を含めると90%に達する。全米の雇用市場への不安も、同64%および88%と高く、この割合は、回答者が住む州の経済に対する不安の59%および88%と同レベルの割合だ。

 回答者個人の仕事に対する不安という観点では、27%および44%と他の項目より低くなっているが、これはトランプ政権の果敢な財政出動によって現金支給が迅速に行われていること、株価が多少戻していることに加えて、あまりに短期間に悪化した大問題なので冷静に考えることができなかったことによるものではないかと分析されている。

 結局、ジョージア州がStay at Homeを解除して経済活動の再開にかじを切った背景には、州レベルでも、また全米レベルでも、経済の先行きに対する不安の高まりがあったといえる。先々週から経済活動再開を急ぎたいと漏らしていたトランプ大統領の頭の中にも、同様の発想があったことは間違いない。

 しかし、同じアンケート調査では、75%の人が経済よりも感染症撲滅が優先だと回答し、感染症よりも経済優先の17%を大きく上回っているのも事実である。これは、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長が、拙速を戒める発言を繰り返していることも影響している。

 だが、ケンプ知事は、経済が死んでは元も子もないとして、大きな賭けに出たのである。

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