2度目の弾劾裁判は失敗に終わったが、これは今後の米国政治にどう影響すると考えられるか。

酒井氏:2度目の弾劾裁判は、そもそも前職の大統領を議会で弾劾するのは合憲か、という問題があり、最初から異例だった。下院での弾劾決議の後、150人超の憲法学者が合憲だとするレターに署名したことを理由に、合憲が学者の多数意見だと報道された。しかし、実際は1月21日には170名だった署名数が2月5日には144名に減っている。つまり、学者自身も揺れていると考えるべきだろう。

 また、上院で弾劾裁判の議長を務めるのは最高裁の首席裁判官、それが不可能な場合は副大統領(上院議長)となるのだが、ロバーツ首席最高裁判官もハリス副大統領も出席しないと語った。双方には「副」の立場の人がいるが、結局はその2人でもなく、上院の多数を占める民主党で議員歴が最長のリーヒー上院議員が議長を務めた。

 欠席者のいずれも合憲かどうかには触れておらず、例えばハリス副大統領は「上院には上院の仕事があり、政権には政権の仕事がある。自分たちの今の優先順位は米国を正常化させることだ」と説明したが、違和感を抱いた米国民もいたのは事実だろう。

 結局、当初の予定通りに57対43で有罪が過半を占めたものの、有罪判決に必要な3分の2には届かず、無罪が確定した。この後に、ペロシ下院議長ほか民主党下院の弾劾チームが約2時間の記者会見をしたものの、悔しい気持ちが分かる以上のものではなかった。

 今回の弾劾裁判で明確になったことは、①バイデン政権はノータッチ、②議会民主党は怒りが収まらない、③共和党は選挙事情のある議員などに造反者が出た、ということだが、これが「米国の分断」を一段と強めるのか、また「米国の政治」を混乱させるのか、現段階では不透明だ。

 今回の弾劾裁判には3つの注目点がある。第1は民主党が拙速だったということ。急ぐよりも有罪を示す事例を積み上げるべきだった。結果が出て憤まんやるかたないペロシ下院議長たちは、やり方が間違っていた。

 第2は暴徒となったトランプ支持者とトランプ氏本人との関係を立証できなかったということ。民主党側が弁論で流したビデオは、9月のバレット最高裁判事の公聴会で示されたものと同じで、事態の深刻さは主張できても、トランプ氏との関係を明確に証明できなかった。トランプ支持者の中からは、このビデオが映し出したトランプ前大統領の発言の前に聴衆は議会に向かっていたとの発言も出た。

 第3は民主党とバイデン政権の連携が感じられなかったことだ。ハリス副大統領の議長としての出席がなかったことを含めて、「有罪の確証も持てずにトランプ弾劾を行う民主党議員」という雰囲気が独り歩きしてしまった。勝てる裁判であれば副大統領が出席したかもしれないという疑問が残るのである。この現実を突いて、トランプ弁護団は過去に民主党議員は幾度となく「弾劾だ」と口にしたシーンを映し出し、「今回の弾劾裁判は、弾劾開始のハードルを下げる以外のものではない」と言い切った。

 いずれにせよ、無罪の確定はトランプ前大統領の本格的な再始動を助ける方向に動くはずだ。来月には始まる中間選挙の予備選の行方を考えると、民主党議員団の思いとは裏腹の結果になったと言えるだろう。トランプ弁護団のトップは無罪判決後に、「リベラルメディアと保守メディアでは事実そのものが異なるような報道があり、驚くばかりだ。今回の弾劾裁判は米国民の気持ちを落ち着ける方向に働いてほしい」という趣旨の発言をしたが、このコメントに同調する米国民は少なくないだろう。

 米国政治の混乱や米国の分断というイメージを誰がつくり、誰が強化したのか、これからは、この視点を一段と強く持って、米国を見ていくべきではないだろうか。

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。