米連邦議会議事堂が占拠された事件を巡るトランプ前大統領の弾劾裁判で、上院は2月13日、同氏を「無罪」とする評決を下した。一方、ジョージア州ではトランプ氏を訴える動きが出ている。また、トランプ氏は、2022年の知事選に向けて既に1人を指名し、他にも指名していく動きを見せている。20年の米大統領選挙はバイデン氏が勝利し、新たな大統領に就任したが、混乱を極めた選挙戦の余波はなお続いている。トランプ氏はなぜ負けたのか。編集部からの質問に、本シリーズの筆者である酒井吉廣氏が答えた。

酒井さんは、共和党全国委員会大統領選挙アドバイザリーボードメンバーだが、なぜ今回、共和党は大統領選挙や上院議員選挙で負けたと思うか。

酒井吉廣氏(以下、酒井氏):私なりに敗因を総括すれば、コロナ禍を夏までに収束できなかったという問題が、全てに影響したことは否めない。米国では生活に直結する問題で判断を間違うと政治生命に直結する。今回は、それが明確に出た。また、黒人、中でも常に差別される側にいる人たちが、米国社会への参加意識を高めたことも大きかったと思う。

(写真:AFP/アフロ)

 現段階では、まだ詳細な選挙分析結果は出ていないが、米調査機関ピュー・リサーチ・センターや米ハーバード大学などのシンクタンクや大学が分析を終えつつある。これらの速報によれば、前回(2016年)より7%多い1億5840万票の投票があった。これは投票年齢にある人口の6割、選挙登録をした人の3分の2に当たる。また、黒人を中心に全ての人種で「今回の選挙はスムーズに投票できた」と評価しているので、水面下に眠っていた票が表に出てきたということが言えると思う。

 前回との比較で言えば、忘れ去られた白人の労働者層を掘り起こして当選したトランプ前大統領に対して、バイデン大統領は、彼らの票もある程度は取り込みながら、もう1つの忘れ去られた人々、つまり黒人などのマイノリティーの票を掘り起こしたことが、勝利につながったと思う。しかも、黒人を含むマイノリティー重視の姿勢は若者にも支持された。

 同時に、プログレッシブの総帥とも言えるサンダース上院議員との政策協定によって、16年にはクリントン候補に投票しなかったとされる同上院議員支持者の票を手にしたことも、バイデン氏の勝因の1つだろう。

 その他、徐々に入ってくる情報を総合すると、16年には人気投票では負けていながら選挙人獲得数で勝ったトランプ氏に対して、人気投票で700万票という圧倒的な差(前回は300万票)をつけたバイデン大統領が、選挙人獲得数で逆転を許すというリスクをつぶすことができた、という評価もできる。

 日本人が米国の選挙結果を見る場合、間違いやすいのは政治との距離間だ。米国では、選挙はときとして政治から独立した「戦争」となり、政治は選挙を左右する要因の1つではあるが、それ以外にも勝敗を決める様々な事象があるということを理解したほうがよいだろう。

酒井さんは、大統領選挙での不正疑惑などトランプ陣営側の主張が認められる可能性について書いてきたが、結局、その主張は却下され、バイデン氏が大統領に就任した。なぜ、全体として主張は認められなかったと思うか。

酒井氏:最高裁判所は2月5日、トランプ側から提訴のあった訴訟案件のうちの5件に関して、2月19日に今後の取り扱いについて話し合うと発表した。これは、2月13日に失敗で終わったトランプ第2回弾劾裁判の結果前に発表したものだ。

 この5つの訴訟案件とは、ジュリアーニ元ニューヨーク市長をヘッドとしたトランプ陣営の弁護団の案件が2件(ウィスコンシン州とペンシルベニア州)、軍事法廷弁護士として話題をさらったシドニー・パウエル氏の案件(ミシガン州)、リン・ウッド弁護士が訴えた案件(ジョージア州)、ケリー共和党下院議員が訴えた案件(ペンシルベニア州)である。

 現時点での提訴状況を見ると、いずれも12月初旬以降に訴えて、大統領就任式後になってようやく受け入れられたことが分かる。当初、裁判所は次に進まないという態度だったが、ここへきて見直しをしたのは、選挙が全て終わったので精査をしようということかもしれない。また、何度も訴えを繰り返していたことも最高裁を動かしたのかもしれない。

 トランプ陣営の弁護士は、直ちに、「その判断は1月20日の就任式前のものだったのではないか」と質問したが、これに最高裁が「YES」と答えることはないだろう。三権分立を前提とすれば、最高裁の行動は選挙への影響が重要だからと言って拙速となるわけにはいかず、慎重に検討した結果だ、と考えるべきだからだ。

 これらの1つでも最高裁が審議することになると、今年10月以降に結果が出てくるので、来年の中間選挙に大きな影響を与える可能性はある。したがって、現段階では、トランプ側の主張が全て認められなかったというわけではないと理解しておいたほうがよいのではないか。実際、多くの弁護士が最高裁の動きを、将来の選挙を考えれば重要なステップだと評価している。

トランプ氏の訴訟は「全敗」なのか

 ここで、このトランプ陣営の訴えがどのように推移したのか、データで見ておこう。

 まず、不受理となった細かな案件を含む棄却数に注目すると、トランプ陣営は激戦州で11~12月に62件の訴えを起こそうとしたが、うち61件とほぼ全てが棄却されたとの数字がある。これは、前回のクリントン陣営の弁護士を務めたマーク・エリアス氏の分析をUSAトゥデイが取り上げたものである。これをもって日本でも「全敗」という報道につながったのだと思う。これらは全て、不正投票の先にある選挙結果を変えることが目的の訴えであった。

 しかし、選挙結果の変更よりも不正投票そのものに注目して改めて挑戦した案件も少なくない。共和党関連組織が中立を旨とする米国の大学の研究機関と共同で、全米レベルで裁判所のデータを調査したところ、わずかながらでも裁判所が内容を吟味した数は81件だった。ただ、同じ案件でも3度訴えれば3件と数える場合もあった。これらを考えると、62件と81件の間には整合性はないかもしれない。

 81件のうち23件は(各案件で何度訴えたかは別として)結果的に棄却された。また、11件は自ら取り下げたか、または他の案件と統合されたもの。この数字を合計すれば訴えの半分弱に当たる34件が消えたことになるので、この点からも、トランプ陣営の主張は受け入れられなかったという報道は間違いではなかったと言える。

 しかし、残りの47件のうちの22件は、証拠と共に考慮されて裁判所はトランプ陣営の勝利とする判断も出している。ただし、その結果をどう評価するかはいまだ意見が分かれている。なぜなら、この中にはバージニアやコロラド、アイオワなど激戦州ではなかった州で、大統領選でバイデン氏が勝った州もトランプ氏が勝った州も含まれているからだ。あるフリーランスのジャーナリストの分析では、トランプ氏の勝利を15件としているが、これについては安易には決められないと感じている。

 結局、現時点で25件の結果が出ておらず、これにつき、引き続き裁判を待っているというのがトランプ側の立ち位置である。前述の最高裁が今後について話し合うとしたのも、この25件の中の5件である。

 世間を騒がせたドミニオン社などによるコンピューター・システムを使った不正疑惑については、3件しか裁判所で取り上げられなかった。うち1件はすぐに棄却、もう1件は主張を認めるべき発見はなかったとの判断、残りの1件のみが現在も継続となっている。

 ちなみに、昨年12月にトランプ前大統領の補佐官だったナバロ氏が「The Immaculate Deception」という36ページの選挙結果分析資料を出して話題を呼んだ。これが今回の最高裁の行動にも影響したとの見方もある。

続きを読む 2/5 郵便投票拡大への一昨年からの準備

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り11173文字 / 全文11257文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。